虫嫌いにとっては悪夢のような姿だが…
スーパーフード・コオロギ

 さて、なぜあまたある昆虫の中でもコオロギなのか。コオロギはどこかの草むらに隠れて鳴いている分には風情があってよいが、姿を現せば途端に不気味であり、家の中で見かけるとあの最もまがまがしい黒褐色の昆虫にも似ていて、発見者は絶叫を免れない。発達した後ろ足が例の昆虫と見分けるための大きなポイントだが、コオロギの後ろ足は後ろ足で異常に美しい三角形を示す異形であり、太もも(とでも称すべき部位)も生々しい太さで、どの道、悪夢のような姿かたちである。
 
 昆虫の中でも比較的おそろしい見た目のコオロギが食用としてチョイスされたことは、一部のゲテモノ好きの興が乗ったから、と邪推してしまうが、実際はこんなくだらぬ理由ではない。コオロギは、さまざまな点で食用に適しているそうである。
 
 まず栄養価が高く、タンパク質含有量を例にとると牛・豚・鶏などに比べておよそ3倍弱高い。次に飼育が容易で成長が早く生産効率がいい。さらにエサや水の必要量、温室効果ガス排出量が低いなどの点から環境負荷が軽い。
 
 そして、コオロギの味は香ばしくておいしいらしい。なんでもエビの味に似ているとか。昆虫が苦手で反コオロギ派の人にとって、「コオロギがおいしい」などという情報は耳を覆いたくなるに違いないが、実際そうだというのだから仕方がない。しかし、よくよく考えてみればエビも相当グロテスクな形をしているので、コオロギがおいしいということもありえるのかもしれない。
 
 無印良品の「コオロギせんべい」は、発売当初は限定販売だったが人気を博したため、後日ネット販売、および一部店舗で限定して再発売されるに至ったそうである。
 
 税込190円のそのせんべいは、見た目のどこにもコオロギを感じさせる部分がない。「コオロギのパウダー」が用いられているとのことで、すなわちコオロギが粉末状にすりつぶされたものが使用されているようだ。
 
 早速筆者もコオロギ食に挑戦してみることにしたが、無印良品のコオロギせんべいはあえて外して、別のものを注文した。無印良品ブランドの食品ならどのような方向性のものでもある程度以上は必ずやおいしいだろうから、食材としてのコオロギの未来を推し量る手がかりにするにはクオリティーが高すぎると考えたためである。そうではなく、もっとコオロギなりのグロさが目立つ商品などに出合えたら、「やっぱりコオロギは、いろいろメリットもあるようだけれども、普及していくには少し難しいよね」などと結論付けることができて、原稿が書きやすいという魂胆もあった。果たして…。