一部の記事や書籍などでは、「株はPERが15倍以下で買いなさい」というような内容のものもあります。これは先に触れたように、過去の日本株全体のPERが13~16倍程度で推移してきたことを考えると、「まあ、それができれば、大けがをすることはなさそうだな」という気はします。

 ただ、個別銘柄では、先ほど見たようにPERの10倍が安くて20倍が高いかというと、一概には言えません。その理由について見ていきましょう。

PERの中身をよく知れば
その理由がわかってくる

 PERは以下のように表現することができます(詳しくは拙著を参照のこと)。

 PER=1÷(r-g) ……(2)
 (※rは割引率、gは利益成長率です)

 この式を見ると、PERが高くなるのは、rが小さく、gが大きくなるときです。たとえば、投資家が積極的に投資をする雰囲気が強い場合にはrは下がっていることが多いですし、また、銘柄の利益成長率が高いと予想される場合にはgが上昇して、PERは拡大します。

 rに影響する要因は、株式市場の調子だけではありません。銘柄ごとの財務体質などでも評価が変わります。ただ、なんといっても、株式市場に対する投資家のリスクのとらえ方の影響が大きいように思います。

 また、PERが低くなるのは、rが大きく、gが小さい場合です。たとえば、株式市場が低調で、投資家がリスクを取りたがらない状況ではrが高くなり、また、企業の利益成長機会が少ない場合にはPERは縮小します。

 さらに具体的に見ていくことにしましょう。rが7%で、gが2%とすると、r-g=5%となり、(2)の式で見ると、PERは約20倍になります。また、rが8%で、gが0%だとr-g=8%となり、PERは約13倍になります。

 こう見ると、「株式市場の状況などによるr」と「企業の利益成長率のg」がPERに影響を与えることがわかります。つまり、株式市場のリスク許容度である熱量などは大事ではあるけれども、個別企業の業績などを考慮せずにPERを一概に議論することは意味がないということになります。

 先ほどの例でいうと、株式市場でもリスクを取りたがらない状況で、企業の財務体質も不安視されている企業のrが10%で、今後の利益成長がないとみなされている、つまりgが0%とすれば、r-g=10%となるので、PERは10倍になります。

 他方で、株式市場で投資家がリスクを取る雰囲気があるということでrが6%、また、今後は利益が永久に毎年1%ずつ増えていくことが予想されてgが1%とすれば、r-g=5%となるので、PERは20倍になります。

 前者のほうがPERは低いですが、こちらの銘柄のほうが割安だとはいえません。

 こうして見ると、株式市場の様子や企業業績への見方などの組み合わせでPERは決まることがおわかりになると思います。

 したがって、単純に自分が目の前にしている銘柄のPERが15倍以下だからという理由だけで買ってよいということにはならないわけです。