なぜアナリストは
将来の5年予想を大事にするのか

 ここまで見てくると、利益がゼロ成長のケースAも含めて、理論株価のかなり部分が「相当先の将来」からできていることがわかります。

 では、なぜ、株式市場は目先ばかりのイベント、たとえば3ヵ月ごとにやってくる決算や新商品・サービスなどに注目するのでしょうか。実際、決算で株価が大きく動いているのは目にしていますし、すでに投資をしている方は経験しているはずです。

 そこでポイントとなるのが、ここまで見てきた前提に立てば、将来の利益を決める「最初の5年間の利益成長率」と「5年後の当期純利益」がいくらになっているかという点です。

 将来振り返ってみて証券アナリストの予想が当たるか当たらないかは別として、5年後の予想値が将来利益の前提となります。

 そして、その数字が理論株価の大半を決定づけるのだとすれば、向こう5年間の予想は、理論株価全体に占める利益の比率が小さいとしても、極めて重要だということがわかると思います。したがって、証券アナリストは将来5年間の利益予想を必死で行っているのです。

 ここまでが理解できれば、高成長企業であればあるほど、向こう5年間に起こりうる業績へインパクトを与えるようなイベントが重要になることがわかるでしょう。

 高成長企業、高PER銘柄について見ると、たとえば、金融緩和が続く、利下げが行われるということはrを引き下げることになるので、株価の動きは高成長で、高PERでない銘柄よりも大きく上昇します。

 また、高成長企業、高PER銘柄が決算発表でこれまで期待できた成長率が期待できなくなったときにストップ安をつけることがありますが、それはgが大きく低下することで、5年後の利益水準も低下し、r-gも上昇することになるので、(3)の式で見ると、分子も分母もダブルパンチで影響を受け、理論株価が低下するからです。

 こうした仕組みがわかれば、高成長企業、高PER銘柄との向き合い方もより楽になるのではないでしょうか。

 PERについて、最後に付け加えておきたいのが、利益成長のポテンシャルについてです。

 ここでは、ケースB、ケースCについて、利益成長する期間は5年間という前提を置きました。もっとも5年以内で終わる場合もあるでしょうし、それ以上成長を続けることもあるでしょう。

 ケースB及びCでは、利益成長「率」を見るために成長期間を同じにしましたが、利益成長率が同じでも、利益成長期間を延ばせばPERが高くなることになります。

 このように、PERについては、利益成長率や成長期間といったことが重要になります。それぞれを議論してもよいですし、その組み合わせで利益成長のポテンシャルが変わりPERの水準も変わるということを理解しておくとよいでしょう。