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相続税対策としての生前贈与とは

 相続税対策や税務調査対策としての代表的な方策といえば、「生前贈与」である。「生前贈与」とは何か。死んでから相続させる代わりに、読んで字のごとく生きているうちに贈与して節税することを指す。

「生前贈与」で将来の相続税の課税対象を減らす方法として、代表的に知られるのが「相続時精算課税」制度と「暦年課税」制度の活用だ。

●「相続時精算課税」制度について

「相続時精算課税」とは、贈与額が2500万円までなら贈与税を納めずに贈与を受けられ、贈与者が亡くなって相続が発生した時点で、贈与時の財産価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、相続税として一括納税する制度である。

 誤解されがちだが、納税が免除され、非課税となるわけではない。贈与税が相続税に置き換えられ、納税を先送りできる制度と考えるべきだ。今は贈与税を払う余裕はないが、将来、相続財産を受け取ったら、そこからまとめて相続税を払えるという場合にメリットがある。相続税は贈与税より税率が低いからだ。

 例えば、1000万円を直系尊属(両親、祖父母など)から受け取ったとして比較しよう。単純計算だが、法定相続分に応ずる取得金額が1000万円の場合、相続税は基礎控除内なので課税されず、1000万円はそのまま。贈与された場合、贈与税率は30%・控除額90万円(受贈者が20歳以上の子や孫など直系卑属の場合)で、納税後に手元へ残るのは823万円となる。

 ただし、「相続時精算課税」は、贈与があった年の翌年3月15日までに贈与税の確定申告をしなければならない。また、「暦年課税」との併用は不可である。

 さらに、不動産の場合、相続発生時に節税効果の高い「小規模宅地等の特例」が使えなくなってしまう。相続なら課せられない不動産取得税も贈与時には発生するので、節税になるかどうか、専門家を交えて慎重に検討すべきだ。

 なお、「相続時精算課税」制度は、贈与をした年の1月1日時点において、贈与者は60歳以上の父母または祖父母、受贈者は20歳以上の贈与者の子や孫が対象条件となる。

●「暦年課税」制度について

 一方、「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までの1年間で、贈与合計額が受贈者1人につき110万円以下の基礎控除額内なら、贈与税の申告・納税が不要となる制度である。ただし、毎年一定額を一定時期に贈与すると、「定期贈与」や「連年贈与」(※)とみなされ贈与税が課せられるので、注意が必要だ。

※「定期贈与」は贈与者と受贈者があらかじめ取り決めした上で毎年贈与を行っていた場合、「連年贈与」はたまたま毎年贈与を行っていた場合。

「暦年課税」には、「一般税率」と「特例税率」がある。「一般税率」は兄弟間、夫婦間、親から未成年の子への贈与に用いられる。「特例税率」は両親や祖父母などの直系尊属から、その年の1月1日において20歳以上の子・孫などへの贈与税の計算に用いられる。税率と控除額が以下のように異なる。

図表:【一般贈与財産用】(一般税率)
出典:国税庁『No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)』拡大画像表示
図表:【特例贈与財産用】(特例税率)
出典:国税庁『No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)』拡大画像表示

「相続時精算課税」よりも「暦年課税」のほうが使い勝手が良いので、「生前贈与」としては一般的だ。ただし、もちろん、「暦年課税」にも注意点はある。まず、贈与財産を受贈者が自身で管理し、使えること。贈与者が預貯金通帳を管理していたりすると、「名義預金」とみなされ、税務調査の対象となりやすい。

「生前贈与加算」にも要注意だ。被相続人が死亡前3年以内に相続人へ行っていた贈与は、その贈与額がたとえ110万円以下でも相続人の相続財産に含まれ、相続税の課税対象となってしまう。つまり、余命わずかで慌てて「生前贈与」しても、相続税の節税対策とはならない。「生前贈与」は早ければ早いほどいい。

 また、『富裕層の節税対策を封じ込める!?「相続税と贈与税の一体化」』のコラムでも述べたように、政府与党主導で「相続時精算課税」制度と「暦年課税」制度の見直しが進められつつある。そういった意味でも、現行の制度を利用して「生前贈与」による相続税対策をするなら早いほうがいい。