「ヤングケアラー」たちが抱える苦悩

 最近、親など家族の介護や世話を引き受ける18歳未満の子どもたち「ヤングケアラー」の取材をしたが、その実状は実に深刻だ。家族のケアで勉強などの時間が削られることはもちろん、日常的に心身に疾患のある親の話を聞き続けることで、将来への意欲までそがれてしまう場合もある。

 親に限らず、きょうだいに障害などがあればケアの担い手として頼られ、実家から出ること、進学や上京が許されない、という場合もある。自分の夢がそこで絶たれてしまうことがある。

 話を聞かせてくれた一人が、「渦中にあるときはそこから抜け出そうという気力さえ湧かず、自分が抜け出すべき、抜け出してよいのだ、という考えに至らなかった」と語っていたのが印象的だった。

 伝統的な家族観が根強く残る日本では「親の負担は子どもが背負うべき」という圧力もまた強いのである。「毒親」という言葉が話題になって久しいが、就職や進学、結婚など人生の選択に干渉してくる親がいることは周知の事実だろう。

 育った環境によっては、進学したいという意思さえ生まれないこともある、というのが現実だ。

生存バイアスで親ガチャを否定する人もいる

 貧困家庭から一発逆転した成功者が、その生存バイアスゆえに「親ガチャは関係ない」と語る姿を見ると、何とも言えない気持ちになる。

 背負ったものを克服するために必要な時間や労力は人によって違う。それは背負っているものの大きさが一人一人全く違うからだ。

 そして、親の影響を断ち切れるまでにかかる時間も当然違う。いつまで親の影響を受けるかといえば、人によっては親が死ぬまでではなく、一生だと思う。

 たとえば虐待の後遺症は大人になっても続く。虐待が脳に影響を与えることはすでに明らかになっており(参考:https://psych.or.jp/publication/world080/pw05/)、実際虐待の後遺症が原因でフルタイムで働けない人たちもいる。親が多額の借金を抱えていれば返済に何年要するかわからないし、実家への仕送りを続ける人もいる。

 もちろん逆境を克服する人もいるが、そういう人の中には生存バイアスに陥り、強者の理論を振りかざす人もいる。

 ただし、ここで強調しておきたいのは、強者と弱者の二項対立ではなく、誰もが強者性と弱者性を内包した存在である、ということだ。