時間旅行と未来予測:あり得る世界を描いてきたSF

 未来予測は、SFの誕生当初から、重要なテーマの一つである。SFの父、H.G.ウェルズによる、時間旅行を描いた作品『タイムマシン』 は、時間旅行の概念を提案したことで有名だが、数万年後の人類の進化過程を予測した点でも重要だ。

 ウェルズは当時の英国における階級社会がそのまま固着すれば、人類はやがてお互いに混じり合わない別々の種族に分かれてしまうのではないか、と予測した。そして現代人(当時の20世紀初頭の人間)をその新人類たちに出会わせることで、その衝撃を増幅する形で物語を描いた。

 時間旅行SFの一つの特徴は、現代人と過去・未来の人間を直接触れ合わせることで、現実の人間たちの価値観を通して、それぞれの世界像の違いをクリアにするところである。この面白さが時間旅行SFを一大ジャンルにした理由でもある。

 例えば『ドラえもん』もそのガジェットを使っている。『ドラえもん』の面白い点は、ドラえもんの取り出す未来の道具が、現代の社会に役立つのみならず、その機能から、ドラえもんや未来人たちの生活と動機、価値観に触れられる点である。そこが、ただの魔法とドラえもんの道具の大きな違いであり、SFの「未来予測」の側面が強く働いているところでもある。

 そして時間旅行の概念は、私たちの時間が単一ではなく、無数のあり得る可能性の分岐に満ちており、前提が変われば変化していく、という概念を導く。この種の古典的な作品としては、レイ・ブラッドベリの『雷のような音』が挙げられる 。これは過去の恐竜時代への時間旅行をテーマにした作品だが、そこで主人公が起こしたわずかな差が、現代の生活を根本的に変えてしまうというブラックコメディーのような作品だ。このように時間旅行に付随して誕生した、歴史を分岐させ、あり得た歴史の可能性を描くガジェットも強い人気がある。

 『ドラえもん』もこのガジェットを使っており、「未来の子孫が、先祖が悲惨な目に遭わないように、ドラえもんを送り込んで未来を変える」というバックストーリーがある。

 繰り返す時間で変化する世界を体験する「ループもの」という作品群や、「転生もの」と呼ばれる、過去や異なる世界を現代知識で無双するというパターンの作品群も、分岐によってあり得る未来を予測するSFに含まれる。

 もちろん、全ての文学は究極的には想像力で可能な世界を描くジャンルであり、未来予測はSFの専売特許ではない。ただし、SFはそうした未来予測のため、科学知識を用いるのが大きな特徴である。そしてこのSFにおける科学の重要性は、とある傑作中のガジェットに結び付く。