『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の編著者・宮本道人氏が、ビジネスに大きな影響を与えたSF作家とその作品を紹介していくシリーズ。2回目は「ロボット工学三原則」を生み出したアイザック・アシモフに注目する。70年以上も前に示されたこの考え方が、AIやロボットの倫理的活用の議論に、今でも大きな影響を与え続けている。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

リモートライフを予言した『はだかの太陽』

 人々は感染症を恐れて自宅に引きこもり、もっぱら映像を介したリモートコミュニケーションにいそしんでいる――。そう書けば、誰もが2020年以降のコロナ禍のことだと思うだろう。ところがこれ、実は1957年に出版されたアイザック・アシモフのSF小説『はだかの太陽』の設定なのだ(ただし、舞台は地球から遙かかなたにある架空の惑星・ソラリアである)。

 アシモフといえば、アーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインラインと並ぶ、米国の「SF御三家」の一人だ。だからというわけではないが、今読んでもすごい。コロナ禍的な未来が予測されているからではない。一見荒唐無稽な未来社会に潜在する「あり得るリスク」をえぐり出しているからすごいのだ。この小説からは、感染症などへの衛生観念の違いによる社会の分断や、リモート社会における犯罪の可能性など、現代に生きる私たちが今まさに直面している課題に対するヒントが見いだせるだけでなく、ロボットと人間が共生するためのさまざまな示唆も得られる。

 アシモフは作家であると同時に科学者でもあり、その広範な知識をフル活用して妄想と現実を絶妙につなぐあまたの傑作を残した。中でも、この『はだかの太陽』や同シリーズ長編第1作の『鋼鉄都市』、そして代表的な短編集『われはロボット』といった、知性を持つ人間型ロボットをテーマにした一連の「ロボットもの」からは「ロボット工学(Robotics)」という言葉とともに、新たな学問領域の可能性が広がった。また、ロボットに課されるルールとして、以下のような「ロボット工学三原則」を導入したことでも有名だ。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
(アイザック・アシモフ『われはロボット[決定版]』小尾芙佐訳、早川書房、2004年より)

 この三原則は、ロボット工学の世界で今も広く知られており、議論の題材になっている(一例として「千葉大学ロボット憲章」を見てほしい)。というより、AIが加速的に発展している今こそ切実なテーマになっているといえるだろう。