親というものは心配するものだが、コロナ禍によって多くの心配の種がもたらされた。そのうちの一つは、周囲の人たちがマスクをしていることで赤ちゃんにはどのような影響があるのか、親や他人との関係構築に支障があるのではないか、ということだ。幸い、新たな研究と従来の多くの研究から、少なくともこの心配は杞憂(きゆう)であることが示されている。こうした研究結果は、不安になっている親に待望の安心を与えるだけでなく、興味深い科学的示唆を含んでいる。乳児がマスクをどう感じるかについてわれわれが懸念する理由は分かりやすい。過去40年間で、かなり月齢の低い赤ちゃんでも顔に大きな注意を向けることがわかってきた。マサチューセッツ大学のエドワード・トロニック氏らが1978年に行った「スティルフェース実験」と呼ばれる画期的な研究で、このことが明らかになった。母親が赤ちゃんと数分間遊んだ後、完全に無表情なポーカーフェースでまた数分間赤ちゃんを見つめる。赤ちゃんは無表情な顔を見ると必ず目をそらし、悲しそうな様子になったり泣き出したりする。赤ちゃんの月齢が上または下でも、また相手が母親だけでなく父親でも、その後何度も同じ結果が再現された。