アンダルシアの洞窟内の住居洞窟住居の中はどうなっているのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

スペイン・アンダルシア地方には、現在も山岳地帯の麓に暮らしている「洞窟の民」たちがいます。文明が発達した21世紀に、なぜ彼らは洞窟での暮らしを選び、どのように生活しているのか。そこには、現代社会で疲弊した自分を取り戻すヒントがありました。そこで今回は、比較文明史を専門としている東海大学名誉教授・太田尚樹さんの著書『アンダルシアの洞窟暮らし』(青春出版社)から、洞窟に住む人たちの暮らしや考え方について抜粋紹介します。

シチリア島で偶然見つけた洞窟住居

 21世紀の現在、洞窟住居に棲むといってもわれわれの生活感覚からすると、あまりにも隔たりがありすぎてピンとこない。ことに日本人には、縄文時代以前のよほど遠い古代史の時代は別として、洞窟とのなじみなどはほとんどない。ましてや、そこで生活を営むことなど、よほど奇想天外な発想の産物でしかない。

 わたしは30代の初期から中ごろにかけて、在学中のスペインのマドリッド大学の夏休みを利用して訪れたシチリア島でおもしろい体験をしたことがある。シラクサ郊外でにわか雨にあい、偶然みつけた大きな洞窟で雨宿りをしたときのことである。

 自然の洞窟らしくて天井の高さが20メートルもあり、手ごろなベッドのように掘られた箇所もいくつかあった。後でわかったのだが、そこは古代ギリシャ、ローマ時代、あるいはそれ以前から、地中海を航行する舟びとたちの中継点であったそうだ。洞窟で寝泊りもしていた彼らは、ここで焚火をして暖をとったり、調理したりしていたのだ。