株主がすぐ「ROE」と言うのはなぜか
実際に、それぞれの経営タイプの会社がどんなパフォーマンスを上げているのか、数字を見てみましょう。額の経営タイプである会社の長期の株式価値はどうなっているのか、グラフを見てみます(図表11)。
左側のグラフは売上高の成長率、右側が営業利益の成長率です。額を狙うためには、当然成長しなければいけません。グラフの下にはQ1、Q2、Q3、Q4と書かれていると思いますが、Q1というのは(左のグラフであれば)売上高成長率が一番高かった会社のグループ、Q4というのは売上高成長率が一番低かった会社のグループを指します。
素直に考えれば、成長率が高い会社のほうが、株価が上がってしかるべきでしょう。であれば、グラフは右肩下がりになっていいはずですが、そのようにはなっていません。これは、売上や利益の成長と、長期の株主価値の間には何も関係がないという驚くべき結果を表しています。
次に「率の経営」を見てみましょう(図表12)。これはさすがに相関しているのではと考えられがちですが、これも「額の経営」とまったく同じです。利益率が高ければ、株主価値が上がっていくと考えてもよさそうなものですが、必ずしもそうではありません。これは営業利益率で見ても、純利益率でも同じことです。率だけ追求しても豊かにはなれないのです。
最後に、複利の経営はどうでしょう(図表13)。左側のグラフがROEで、右側のグラフがROICです。これらの指標が長期間持続することと、株式の累積リターンの間には、強い関係があることがわかります。この「複利の経営」こそが、みなで豊かになる経営に至るまでの確実な道なのです。
株主はすぐ「ROE」、「ROIC」と言うのはなぜかというと、ファンドとしてのリターンを上げたいからです。それはもちろんそうでしょう。ですが、本当に大切な理由は、みなで豊かになれるからです。ROEは短期投資家のためのロジックだと言う方が多いのですが、これは私からすると絶望的事実誤認です。高いROEを長期間維持することこそ、みなで豊かになる道にほかならないのです。