楠木建 一橋大学教授「経営の王道がある。上場企業経営者にぜひ読んでもらいたい一冊だ」と絶賛、青井浩 丸井グループ社長「頁をめくりながらしきりと頷いたり、思わず膝を打ったりしました」と激賞。経営者界隈で今、にわかに話題になっているのが『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』だ。
著者はアンダーセン・コンサルタント(現アクセンチュア)やコーポレート・ディレクションなど約20年にわたって経営コンサルタントを務めたのち、投資業界に転身し「みさき投資」を創業した中神康議氏。経営にも携わる「働く株主®」だからこそ語れる独自の経営理論が満載だ。特別に本書の一部を公開する。

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コンサル人生を決定づけた
上司から言われた言葉

 唐突ですが、経営コンサルタントという職業は、よくよく考えると結構無理筋の稼業です。中でも、私が長らく就いていた戦略に特化したコンサルティングという仕事は、少し前までは「1業種1クライアント」という職業倫理を厳格に守っていました。企業にとって最も他社に知られたくない、戦略というテーマに携わるからです。

 一方でそれは、戦略の相談に乗ると言いながらその業界のことは何も知らない、いやむしろ知っていてはいけないことを意味します。にもかかわらず、コンサルタントは経営者から高額のフィーをもらっているのです。ちょっと不思議ですよね。

 私は米国でも戦略コンサルティングをしていました。今度はもっと過酷な状況です。業界を知らないだけではなく、言葉もロクにできないわけですから。これで本当に戦略コンサルタントなんかできるのかと悩んでいるときに、上司から言われた言葉。これが衝撃的、かつ本質的でした。私の職業人生を一発で決めた言葉だったのです。

 曰く、「いいか、ナカガミ、コンサルタントは゛What business are you in?”(あなたはどんな事業を営んでいるのですか?)という議論をしてはいけないぞ。相手は長年この業界で過ごしている、この事業のプロだ。゛What business are you in?“って聞かれると、業界経験豊富な経営者は、微にいり細にいり、事業の中身を滔々と語り始める。業界の素人であるこっちは、まったく戦えなくなる。だからコンサルティングという職業は、『これは具体論としてどういうビジネスなのか』というレベルで議論をしたら絶対アカン。勝ち目はない。しかもお前は英語もロクにしゃべれない。そんな奴がWhat? という議論をしてはいかんのだ」と。

 彼はその後、こうも続けました。「ただな、ナカガミ、゛What kind of business are you in?”(あなたの事業はどういったタイプの事業なのですか?)。これならいいぞ、これならお前でもイケる、戦えるぞ」と言ったのです。

 What kind of business、つまり個々の事業を抽象化する、抽象化してパターン化するということですね。細かなWhatというものはいろいろあるけれど、そういったことを思い切って捨象して、ぎゅっと抽象化してしまえば、「なるほどこのビジネスは、『この手のビジネス』なのか」と理解することができます。このビジネスが「この手のビジネス」だということは「あの手のビジネス」と似ているよねとか、ここは違うよね、だから戦略としてはこうすべきではないですか、と議論をリードできるようになるのです。