SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の編著者・宮本道人氏が、ビジネスに大きな影響を与えたSF作家とその作品を紹介していく本シリーズ。3回目に取り上げるのは、ジェンダーSFの大家、マーガレット・アトウッドだ。代表作である『侍女の物語』は、発表から32年後にドラマ化されて世界中で大ヒット。救いのないディストピアを描きながらも、不条理な現実に立ち向かい、行動する勇気を多くの女性たちに与え続けている一冊だ。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

男尊女卑が極まった、悪夢の未来社会

 あなたはもうご覧になっただろうか? エミー賞やゴールデングローブ賞のテレビドラマ関連の主要部門を総ナメにした『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』を! 2017年にHuluで配信が始まり、21年現在4シーズン目に突入。特定の動画配信サイトでしか見られないという制約にもかかわらず、世界中でヒットしている人気ドラマだ。この原作者(かつ、ドラマのコンセプトプロデューサー)がマーガレット・アトウッドである。

直視困難なディストピアでジェンダー問題を理解する!――マーガレット・アトウッドHuluで独占配信中の「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン1~4より
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 アトウッドは、ノーベル文学賞候補にもたびたび名前が挙がる世界的文学者だ。そして、本作『侍女の物語』が出版されたのは今から35年以上も前の1985年。当時も大ベストセラーとなり、87年には記念すべき第1回のアーサー・C・クラーク賞を受賞している。

 タイトルの古めかしい響きはまるでゴシック小説だが、近未来のアメリカを舞台にしたれっきとしたSFだ。ただし、作中の米国はまったく「自由の国」ではない。クーデターで政権を奪った宗教国家「ギレアデ共和国」が専制政治を敷いており、バリバリの身分社会が復活しているのだ。人々の自由は剥奪され、国家に逆らえば即処刑、というすさまじいディストピアなのである。そして、この世界で最も抑圧されているのが女性だ。ギレアデ共和国では、環境汚染などが原因で出生率が極端に下がっており、生殖能力を持つ女性は貴重な資源だ。そこで「子づくりの道具」として高官にあてがわれる。この性奴隷的な身分が「侍女」だ。ドラマの第1話には、宗教儀式化された性行為のシーンが登場するが、フィクションと分かっていてもつらくなるほどショッキングである。

 しかしなぜ今、この作品が再び注目されているのだろうか。端的に言えば「ただのフィクション」と笑い飛ばせないほど、現実が作品世界に近づいているからだ。