女性の権利侵害への抗議の象徴となった『侍女の物語』

 象徴的な出来事として、ドラマ化直後に盛り上がった「#MeToo」のムーブメントがある。これまで男性社会の中で隠蔽されがちだった女性への性的ハラスメント。2017年、それらを告発する声がハリウッドを中心に一気に吹き出し、その潮流が世界に広がったのだ。フェミニストとしても精力的に活動する女優、エマ・ワトソンは、#Metooの文脈でしばしば本作に言及している。また彼女は、女性の権利を守る活動の一環として「パリの街のあちこちに100冊の『侍女の物語』を隠す」というユニークなパフォーマンスを展開している。また、元米大統領候補のヒラリー・クリントンも、スピーチの中で本作について触れ、女性の権利について語ったという。

 今年の話題でいえば、6月には米国テキサス州で妊娠6週以降の妊娠中絶処置を禁止する州法が施行された。伝統的なキリスト教の価値観を背景とするものだが、同時に女性の選択権を深刻に侵害する法律でもあるため、歌手のビリー・アイリッシュなど多くの著名人が抗議の声を上げている。また、7月には、トルコが欧州評議会の「女性に対する暴力およびドメスティックバイオレンス防止条約」から脱退。欧米諸国から非難の声が上がった。男性は見落としがちなことだが、女性の人権侵害は今も普通に起こっているリアルな出来事なのだ。このような際に行われる抗議活動では、本作のドラマを模した衣装を着てデモを行う人々もたびたび目撃されており、『侍女の物語』は女性が困難に立ち向かうシンボルとして世界中で共有されるようになっている。

 それってビジネスに関係ある?と思う人もいるかもしれない。もちろん、ある。生や性にまつわる自己決定権は人権の基本であり、それが不当に制限されればビジネスを含む社会活動全般が萎縮する。ことに女性の権利侵害は、ビジネスを含む社会から女性を疎外することにつながり、世界が目指す多様性の包摂とは真逆の動きを強めてしまうからだ。