「境界」に潜む、未来の豊かな可能性

――フィクションと現実をつなぐためには何が必要でしょうか。

ちょっと怖いけど見てみたい、スペキュラティヴな視点による未来社会はせがわ・あい
アーティスト、デザイナー
生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。2012年、イギリスのRoyal College of Art, Design InteractionsにてMA取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員。2017年4月から東京大学特任研究員、JST ERATO 川原万有情報網プロジェクトメンバー。(Im)possible Baby,Case 01: Asako & Morigaが第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。森美術館の「未来と芸術展」(2019年11月~2020年3月)で2作品展示。著書に『20XX年の革命家になるには――スペキュラティヴ・デザインの授業』(ビー・エヌ・エヌ新社、2020年1月)など。 Photo by Kenji Tanaka

 やはりテクノロジーは解決手段として重要です。例えば「バ美肉おじさん(バーチャル世界で美少女アバターの姿で活動する男性)」も、テクノロジーの力でジェンダーを脱ぎ捨て、自由になっている一例といえます。ただし、それは生活のほんの部分にすぎません。もっと包括的にジェンダーを自由にするテクノロジーもあり得ると思います。

 そういう意味で、フェムテック(女性の健康課題を解決するテクノロジー)は、私にとってすごく興味のあるテーマです。ただし、先ほども触れましたが、そもそも女性の体に関する研究も認識も現状では不足しています。そんな中、女性の加齢による体の変化などを調べていて面白かったのが、いわゆるトランスジェンダーのコミュニティから有用な情報が得られたことです。男性から女性へ、あるいは女性から男性への越境を試みる人たちの体を張った実践によって、独自の知見が蓄積されていたのです。これは、まさにビジネスが取りこぼしてきた盲点ではないか――。

 他にも、こういった不可視化されている境界的なエリアはあると思いますし、実はこういう境界こそ、ビジネスチャンスの宝庫なのではないかと思います。

――境界にいる人たちの行動にこそ、普遍的な解決策が潜んでいると。

SF思考』でも強調されていましたが、未来の価値観は確実に今とは違うものになる。今のマイノリティーが未来のマジョリティーになる可能性を考えると、今マイナーな価値観を持っている人たちに学ぶことは未来を考えることです。そして、今生きづらい人たちのニッチなニーズに向き合い、サービス化していくことは、実はその周囲の多くの人たちを助けることになるのではないでしょうか。

 ただし、そのためにはできるだけ多様な声を拾う姿勢が求められます。私も「女性として」意見を求められる機会が多いのですが、女性代表といわれるとどうしても発言が慎重になりますし、女性内部の多様性は1人では代弁できません。ビジネスにつなげるには、意思決定の場に最低3人は当事者が欲しいと思います。

――確かに、「多様性に配慮した」と言いたいがためにプロジェクトに女性を1人だけ入れて良しとするような態度では、ただのアリバイ作りになりかねません。「3人」というのはいい目安ですね。

 とはいえ、数の問題はどの業界でも悩ましい部分だと思います。アートの分野でも、例えば美大の学生は女子が多いのに、教員は男性が多い。アートでは性的な題材を扱うこともあるので、男性教員だけでは受け止めきれないという声がある。社会のさまざまな面でバランスの改善が必要です。