ジェンダーを通じて、社会を再発見する

――『SF思考』でも、そもそもの問題意識として「ビジネスパーソンの閉塞感を打破したい」というものがありました。特に、大企業の若手が夢や希望を見失って鬱々としている姿をよく見掛けるのですが、発想を未来に飛ばすためにも、目の前の収支やマーケティングデータからちょっと目を離して、SFやアートのような「遠く」を見ることが大事だと思います。

 データを扱うにしても、ジェンダーの視点を入れるだけで見える世界が変わります。例えば、ジャーナリストのキャロライン・クリアド=ペレスが書いた『存在しない女たち――男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』という本では、社会がいかに男性中心に科学技術を発展させてきたかが明らかにされています。

 女性トイレにだけ長蛇の列ができるのも、雪の日に特に女性がケガしやすいのも、実は社会設計に性差が考慮されていないからだとしたらどうでしょうか。特に私が衝撃を受けたのは、女性は生理周期があってホルモンの影響を受けやすいので、薬の治験から外されがち、という話です。だから、ちゃんと承認を受けた薬でも、女性にはちゃんと効かない可能性があるのだと。これを企業側から見れば、視野の半分をふさぎ、市場の半分を見ずにビジネスを展開しているに等しいですよね。

――社会の多様化が進めば進むほど、さまざまな人間の視点で現実を見つめ直すことが重要になりますね。フィクションはそのための大事な手段になると思います。

 ファンタジーやSFが、つらい現実からの逃げ場として存在している面もありますし、そのこと自体はとても重要だと思っています。例えば、いわゆる「腐女子」かいわいでは、フィクションの特殊設定として「オメガバース」という概念が人気です。そこでは、男女二元論ではない新たな性が想定されている。フィクションの中で女性性を解体することで、ある種の自由を享受したり、現実の鬱憤を晴らす役割を担っているんですね。

 ただ、それだけでは現実は変わらない。やはり現実につなぎ、撹拌していくアプローチも重要だと思います。