田原総一朗&池内恵&三浦瑠麗「米国のアフガニスタン戦争は失敗だったのか?」Photo by Teppei Hori

「アフガニスタン戦争」とは何だったのか? 米国をはじめ国際社会はアフガニスタンに何をもたらし、これからアフガニスタンはどうなっていくのか? そして日本は今後、アフガニスタンとどのような関係を築けばよいのだろうか? 国際政治学者の三浦瑠麗氏、東京大学先端科学技術研究センター教授の池内恵氏、ジャーナリストの田原総一朗氏が徹底討論。全3回の2回目である今回のテーマは「米国のアフガニスタン戦争は失敗だったのか?」。アフガニスタン戦争とイラク戦争を比較しながら考察する。(構成/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)

 2021年8月15日、「タリバンによりカブール陥落」のニュースが世界中を駆け巡った。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに米国はアフガニスタン戦争を開始し、アフガニスタンのタリバン政権は崩壊したが、20年を経て再びタリバンが権力の座に返り咲いたのである。米軍が撤退を進める中、国外に脱出しようと数千人の市民がカブール空港へ殺到。離陸する飛行機にしがみつくなど空港は大混乱に陥った。8月31日に駐留米軍の最後の軍用機が脱出し、ついに「米国史上最長の戦争」の幕が下りたのである。

タリバンを追放するのではなく
新政権内にタリバンを加えるべきだった

田原総一朗(以下、田原)前回の続き)では、アフガニスタンやイラクに対し、アメリカはどうすればよかったのだろうか?

【鼎談】田原総一朗&池内恵&三浦瑠麗「米国のアフガニスタン戦争は失敗だったのか?」池内恵(いけうち・さとし)
東京大学先端科学技術研究センター教授。東京大学文学部イスラム学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『イスラーム国の衝撃』(文藝春秋)、『現代アラブの社会思想』(講談社)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)、『シーア派とスンニ派』(新潮社)など。 Photo by Teppei Hori

池内恵(以下、池内) バイデン大統領は、「アメリカは対テロ戦争だけをやるべきだった」と、このように言っているんですね。

 2001年9月11日の同時多発テロの後、アメリカは12月にはタリバン政権を壊滅させました。その時に、タリバンの一部のアルカイダと関わった人だけをテロ支援の罪状で裁く。そのほかのタリバンの人たちに対しては、テロとは関係のない普通のアフガニスタン人とみなし、タリバンの人も含めた政府を樹立する。

 仮に、2001年12月から2002年1月くらいにタリバンの降伏を受け入れ、彼らを包摂していれば、カウンター・インサージェンシーや国家建設に関わらないでも済んだでしょう(前回参照)。「対テロ戦争だけをやるべきだった」というバイデンの主張の通りにアメリカが物事を進めるなら、そうすべきだったんです。しかしこういった話は当時はまったく考えられていませんでした。

田原 一部の人を戦争犯罪人として裁けば、タリバン政権のままでいいとアメリカが認めるべきだったということですか?

池内 いえ、タリバン主導の政権ではなく、タリバン政権を崩壊させた後に、タリバン勢力を一部に入れた、タリバンの支持者たちにも支持される新しい政権です。それは決してタリバン政権ではなく、反タリバンの政権です。反タリバンの政権に、タリバンが降伏して入ると。

 タリバンが実際に政権に入るかどうかは別にして、2002年、アフガニスタンをアメリカが占領している状況下、アメリカが推薦するアフガニスタンの新政権の下で降伏してもいい、主ではなく従の形となってもいいと、タリバン側は言っていたわけです。タリバンは降伏する意思はあったんです。ただ、アメリカがそれを認めませんでした。新政権の一部にタリバンを入れるということは、当時のアメリカとしては認めがたかったのです。

田原 三浦さん、そのあたりはどう思いますか?

【鼎談】田原総一朗&池内恵&三浦瑠麗「米国のアフガニスタン戦争は失敗だったのか?」三浦瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。 東京大学大学院公共政策大学院専門修士課程修了、東京大学農学部卒業。日本学術振興会特別研究員、東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治とを専門とする。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文藝春秋)。 Photo by Teppei Hori

三浦瑠麗(以下、三浦) その通りだと思います。ただ、2001年の911テロ以降のアメリカの、アフガニスタンあるいはイラクに関する世論や識者の意見を見ると、いま池内さんがおっしゃったことを見据えていた人は到底いませんでした。

『シビリアンの戦争』について研究をしていた頃、助成を受けてアメリカの行った対テロ戦争について現地調査をしたことがありました。その時、研究計画を審査するアメリカ人の1人が、とてもよい研究計画ではあるが、ひとことだけ言わせてほしいと言うんです。

「イラク戦争を批判するのは構わない。イラク戦争は確かに失敗だった。ただ、アフガニスタン戦争は我々の自衛戦争だ。そこはきちんと線を引くよな? わかってるだろう?」とこう言われたんです。私は「わかりません。時が教えてくれるでしょう」と言いましたが、確かに自衛のレベルでいうと、イラク戦争とアフガニスタン戦争は次元が違います。

 アメリカはイラクに存在しない大量破壊兵器を、「ある」と勝手に決めつけて戦争を始めたわけで、大量破壊兵器を持っているかもしれない国に戦争をしかけていいのであれば、イランにだって北朝鮮にだって戦争をしかけて占領してもいいという論理になってしまいます。それはおかしい。けれどもアフガニスタン戦争では、911テロの首謀者であるアルカイダをかくまうタリバン政権を倒したので、イラク戦争とは確かに状況が違います。

田原 僕は、イラク戦争の2カ月前にイラクへ行ったことがある。フセインが僕のインタビューに応じるという。