アメリカによる
アフガニスタン戦争は失敗だった
三浦 「アメリカはどうすればよかったのだろうか?」という冒頭の問いに戻すと、私はビン・ラディンだけを討ち取ればよかったのではと思います。

先ほど話に出たように、タリバン政権を崩壊させた後、反タリバンの新政権にタリバンを劣位に置く形で参加させて米軍はアフガニスタン戦争から撤退する。あとはアメリカはビン・ラディンを捕まえることだけに専念すれば、最小限の兵力とコストでもってして、アフガニスタン人の付随的被害を最小限にとどめつつ、テロの首謀者だけを殺すことができたかもしれない。
一方で、戦争を肯定する側からすると、戦争をしたからビン・ラディンの潜伏先などの情報が手に入るようになったんだと言う人もいます。どちらが正しい意見なのかは、未来予測みたいなものでわからないんです。
でも、ひとつ確実にいえることは、アフガニスタン戦争を始めた時のブッシュ政権の目標と、オバマ政権が戦争を拡大した時の政策目標は別物だということです。また、オバマ政権中にも目標が変遷していった。目標が違うということは、要はアメリカとしては、アフガニスタン戦争は失敗だったということなんです。
「アメリカは対テロ戦争だけをやるべきだった」というバイデンの主張ですが、彼が2002年や2003年の時点でそのように考えていたとは思えません。でも、当時のオバマ政権への取材記事などを調べていると、アフガニスタン戦争に積極的なオバマに対して、バイデンは相当、及び腰なんです(注・2009年1月20日にバラク・オバマは第44代アメリカ合衆国大統領に就任。それに伴い、ジョー・バイデンも副大統領に就任し、2017年まで務めた)。
オバマは戦争目的の拡大に前のめりでしたが、国民の批判を恐れて兵力はそれほどアフガニスタンへ送りたくはなかった。だから軍に無理難題をいろいろと突きつけます。でもバイデンはオバマの政策に対し、常に「それは難しい」「成功しない」といったコミュニケーションをしているんです。
バイデンは当時、オバマ政権の副大統領ですから、オバマが望む政策を手助けすることしかできない。しかし、彼自身はアフガニスタン戦争の拡大をあまり望んでいなかった。しかも、ビン・ラディン殺害後は、もう米軍がアフガニスタンにいる意味はないということを、かなり大っぴらに言うようになりましたね。

田原 結局、アフガニスタンはタリバン政権に戻りましたが、それでよかったのでしょうか? 今回、日本は何もしていないじゃないですか。
池内 アフガニスタンの日本大使館なんて、とても小さいわけです。治安安定の支援をしているNATO諸国は、部隊を現地に派遣しているので守ってもらえる。でも日本は丸腰なので、普段から、最小限の人員が大使館や公邸にこもって、危ない目に遭わないように息を潜めているしかない。そのような体制で、アフガニスタン国内の問題にまともに対応できるわけないんですよね。アフガニスタン政府や反政府勢力に対して、日本側の意志を反映させるための手足は持ち合わせていませんでした。
ただ、経済的には日本はアフガニスタンに非常に大規模な開発援助をしてきました。それを今回、かなり無駄にすることにはなります。結局、タリバンによってこれまでの国家建設のための援助のかなりの部分が否定されるわけですから。
それについては、日本の取り組みのうち何が失われ、何が残るのか検証しなければなりません。また、日本側の能力や意思の不十分さが露呈したので、今後どうすればよいのか、どうしたいのかを、しっかりと考えていかなければなりません。