コロナ禍、気候変動、DXの進展、短い期間で大きな変化が起きる、未来の予測がつかない時代である。テクノロジーの高度化で、個人が自由に経済活動を行った結果、格差問題や分断が生まれる資本主義の行き詰まりは目に見えているが、かといって、ますます個の自由を制限し、統制を強め、独裁の一途をたどる中国のようなあり方がより好ましいというわけでもない。今後人類はどのように生きるべきなのか、社会システムがどのようにあるべきなのか。こうした問題に、どんなに進んだ経済学も政治学も脳科学も、社会学も唯一最善の明確な答えを出してくれるわけではない。

さて、今回採り上げるのはSF小説『幼年期の終わり』。映画もヒットした『2001年宇宙の旅』などでも知られる、アーサー・C・クラークによる最高傑作の1つである。現実逃避をしようというのではない。この小説をある読み方で読むことで、未来について考えるよすがになるのではないかと思うので紹介したい。

未熟な人類社会に
「オーバーロード」が降臨

人間が個を失い、全能のアルゴリズムに取って代わられる世界は是か非か『幼年期の終わり』アーサー・C・クラーク(光文社古典新訳文庫)

 何度読んでも胸がつまる思いになり、新しい発見と感動が得られる小説『幼年期の終わり』は、幾人かのキャラクターも登場する、一般的な小説と同じような物語として書かれており、決して概念や抽象論だけで構成されているわけではない。しかし、ここでは私なりに今回の読解に沿ったあらすじを示しておこう。なお、一般的なあらすじとはまったく異なっていることをお許しいただきたい。

 人類はいまだに未成熟であった。民族、宗教、そして国家ごとに分断され、互いに争いを起こしている。その結果、核戦争によって破滅の道を歩む可能性があった。そこに現れたのが異星人であるオーバーロードである。

 人類を圧倒する科学力を持つにもかかわらず、オーバーロードは地球侵略も経済的な搾取も行わず、ただ空中の巨大な宇宙船から人類を見守っているだけである。ただし、高い倫理性持ち、人間たちの悪行には見せしめとしての強烈な制裁を行う。誰もオーバーロードには逆らえない。その導きにより、人類は世界連邦に統一され、平和な社会を構築することができた。