身体に近いものから拡張する

日本人がクリエイターとして、世界で戦うためのベストな方法とは秋元氏と細尾氏

細尾 仮説として思っているのは、「身体に近いもののほうが偉い」と言ったら語弊がありますけど、重要なんじゃないかと。着るものだったり、食べるものだったり、暮らしの中で使っていくものですね。アートは高尚ではあると思うのですが、むしろ身体に近いところから考えていくことがあっても良いかなと。

秋元 どういうこと?

細尾 たとえば、ザハ・ハディッドのようなスケールの大きいデザインにこだわる建築家がいる一方、身体に近いものから拡張していく建築なんかも日本にはあったと思うのです。工芸的な考え方は決して伝統工芸に限ったものではなく、いろいろな部分で考え方として応用できるのかなと。

秋元 行けるところまで行く世界観と、自分の身体感覚みたいなものをベースにしながら暮らしを組み立てる世界観。なんていうか、身のまわりのものを自分が信頼できるもので揃えていくとか、家も自分の身体の延長上でつくっていくとか、そういうのは出てくると思うね。

細尾 週末に畑づくりや木工に没頭するビジネスパーソンの方もいらっしゃいますが、それも結構近いかなと。

秋元 そうだね。先日、上場企業の経営者としてビジネス界でトップを走っている方と会ったとき、「アイデンティティのクライシスみたいな時期があって、前衛舞踏をやっていた」なんて話を聞いたんだよ。

細尾 やっぱり皆さん、そういう創造的な活動を陰ながらなさっているのですね。

秋元 合理的で、抜け目がなくて、数字に強い経営者の方が意外にもね。

細尾 前衛舞踏と経営では、そうとう遠いところにありそうですよね。

秋元 そうだよね。でも、ビジネスで抜け目なく、効率的にやっていくと、だんだん人間じゃなくなっちゃうみたいなところがあるから。だから、やっぱりオンとオフをきちんと持って、ある種の人間的な温かさとか、人と人が触れ合ってやりとりする、打算も何もなく楽しむとか、そういうことが必要なんだろうね。

細尾 多分、そうしないと超多忙な日常から抜けられなくなってしまうのかもしれませんね。

つづく