田中:これは冗談じゃなくって、「最後は死ぬ」っていう動かし難い行く末を忘れているんじゃないでしょうか。ただ生まれてきて、ただ死ぬんですよ。例外なく全員が。動かし難いからこそ、その「生きてる」ことに「意味を見出したい」というのはわかります。わたしだってそう思うことはあります。

でも、多くの人が、人生の意味を「生まれてから死ぬまでの間にどれだけ利益を得たか」ということにすり替えていないだろうかと。要するに、「人生のコスパ」です。人と会話をするのもそう、景色もそう、太陽の光だって空気だって無料で替えがたいものはいっぱいあるのに、人生の意味が「どれだけ利益を得たか」になっている。それがまるっきりあかんとは言わないですけれども。

──そうおっしゃる田中さんは、コスパについて考えないんですか?

田中:牛丼は一日3杯までと決めています。

今野:コスパの最高峰やないか。

田中:子どもの頃、わたしは普通の公立中学から私立のお坊ちゃん学校に行かざるを得なかったんです。公立高校の受験に失敗したから。それが、もうとんでもない金持ちしか集まってない学校だったんですよ。

すると嫌でも気がつくんです。「俺が多少がんばって利益を得たところで、こいつらが生まれつき持っている金にすら一生勝てないな」と。だって高校生なのに努力ゼロで10万円の服買ったり、免許取って親に買ってもらった外車乗り回したりしてるんですよ。高校生が。『巨人の星』の花形満は小学生なのに『ミツルハナガタ2000』っていう車を乗り回していました。どう考えても無理でしょ。『ミツルハナガタ2000』なんて一生勝てませんよ。

──たしかに勝てませんね(笑)。それが、田中さんが「コスパで生きない」ある種の原体験ですか。

田中:はい。というか、バカバカしいなって思いました。

さらにですよ、大人になって電通に入ったら、今度は東大出てるやつが一番多いんですよ。そんなところに入ってしまったら、私立文系バカ田大学卒のわたしや今野さんはどうしようもないわけです。東大卒の「人生のコスパ」には敵わない。

コスパを目指すなら「どうして18歳のときにがんばって東大に入らなかったの?」と。

18歳で東大に入ってないのに、25歳とか35歳とかになってコスパ目指してがんばるなんて「なに今さら得しようと思ってんの?」と。

「18歳のとき、もう少しがんばっといたらよかったやん」と。

その時点で「あんた、とうにコスパ捨てとるで」と思うんです。コスパを求めようとするわたし自身に対して。

それを後になって取り戻そうとして、どことは言わないですけどダイヤモンド社とかの1500円の本を買っちゃうわけです。

資本主義が「不機嫌な人」を増やすしくみ虚無

田中:1500円で取り戻せるわけないやろと。

今野:学びを得たいわけでしょう。

田中:今野さん、それですよ。