有名建築家から予想外の依頼が届く

 そんな中、転換点になったのは、二〇〇八年一二月にパリの装飾美術館で開かれた「kansei - Japan Design Exhibition」という展覧会でした。

 これは、日仏交流一五〇周年を記念した展覧会で、「日本の感性価値」がテーマでした。私たちは西陣織の、琳派(りんぱ)柄の帯二本を出品しました。

 この展覧会では工芸品だけでなく、任天堂のゲーム機や、チームラボが制作したアニメーション、深澤直人氏がデザインした携帯電話、リコーのカメラなどもありました。この展覧会は非常に好評で、翌年ニューヨークに巡回しました。

 美術館での展覧会なので、ビジネスに発展するとは思っておらず、「多くの人に西陣織を見てもらえたらいいな」という程度の軽い気持ちでした。

 ところが翌年の二〇〇九年、ニューヨークでの巡回展が終わった直後に、ニューヨークから一通のメールが細尾に届いたのです。

「展覧会で帯を見た。その帯の技術と素材を使って、テキスタイルの開発を依頼したい」

 というものでした。驚いたことに、ニューヨークの有名建築家、ピーター・マリノ氏からの依頼でした。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。