1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

西陣織が海外に進出する大きなきっかけとなった一通のメールPhoto: Adobe Stock

一年だけ専属でやらせてほしい

 まだ日本国内でしか知られていない伝統産業の西陣織を、海外に向けて売り出していく。その挑戦に、とても可能性を感じていました。

 前例がどこにもないからこそ、それをプロデュースしてみたいと思いました。

 その頃にはビジネスの基礎は多少学習していましたし、その上で、独自の優れた技術を持つ西陣織を海外に売り出せば、日本から世界的なハイブランドをつくれるんじゃないか、そう思ったのです。

 そんなわけで私は二〇〇八年一〇月に、海外展開を推し進めるべく、やる気満々で家業に戻りました。

 ところが実際に戻ってみると、社内のテンションが思っていたのとはまったく違いました。会社の意識は、依然として国内を向いていました。伝統の帯と、約一〇〇年前に曾祖父が始めた問屋業が軸の会社。それは変わらない、と。

 海外展開といっても、当時はどんどんお金が出ていくばかり。多少オーダーが入るにせよ、ビジネスとしてはまったく成り立っていませんでした。

 きものビジネスがこんなに苦しいときに、なんでわざわざ海外展開なのか。そんなのやめたほうがいいんじゃないか。社内をそんなムードが覆っていました。

 でも私自身はそれがやりたくて入っているので、やめるわけにはいきません。

「一年だけ専属でやらせてほしい」と願い出ました。