いつの時代も、どこの業界にも、風雲児と呼ばれる人物は出現する。動物病院業界も例外ではない。ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏のような圧倒的な経営者を目指して血気盛んな獣医師経営者がいる。特集『動物病院の最前線』(全10回)の#5では、巨大動物病院グループを目指す獣医師に話を聞いた。転換期にある業界のフロントランナーか、それとも……。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
「全国の動物病院を買収する」
同業者の評価はまちまち
動物病院グループのWOLVES Hand(ウルブズハンド、本社:大阪市)は、傘下に京阪神と首都圏、沖縄の30院を擁している。このグループを率いるのが、北井正志代表取締役CEO(最高経営責任者)だ。
北井氏は26歳で開業獣医師となって以来、積極的な投資を断行して経営規模を拡大。2019年には投資ファンドのJ-STARが保有していた動物病院を譲受(本特集#1『ペッパーランチを買った投資ファンドが「動物病院」を密かに買い集める理由』参照)し、加速度的に規模を広げた。
動物病院業界では、ウルブズハンドと北井氏の手腕に対してさまざまな声がある。「獣医師としては抜きんでた経営センスがある」という評価があった。その一方で、ウルブズハンド傘下の一部の動物病院が高度医療に対応しているという触れ込みについては「高度と呼べる医療水準には達していない。あそこに患者を紹介したいというかかりつけ医は非常に少ない」という業界関係者がいた。
評価はさまざまだが、全国の動物病院関係者にとって北井氏が無視できない存在になりそうなのは事実だろう。というのも北井氏は今後、全国の動物病院にいっそう買収を仕掛け、日本最大の動物病院グループを形成する方針なのだ。25年に100病院体制を目指しており、新規株式公開(IPO)も視野に入れている。社名のおおかみそのままに、アニマルスピリットむき出しで全国の動物病院に挑戦状をたたき付けている。
果たして北井氏はどのような人物なのか。次ページから、北井氏の戦略を談話形式で伝える。