2カ月後の発注で「緊急」主張
本連載第10回で指摘した宮城県石巻市によるアスベスト除去工事の“二重発注”問題だが、なぜ市は除去工事を失敗した業者にもう一度、しかも以前より高額の予算で委託したのだろうか。また、こうした発注は適切なのか。
それを考える前に現場の状況を簡単におさらいしよう。
前回明らかにしたように、石巻市はアスベストを飛散させたとして問題になった解体工事について、市にアスベスト除去工事の管理能力がないため、そうした知見のある解体業者を元請けにし、現場監理も含めて除去工事を発注したと説明していた。ところが、実際には元請け業者は地元の有限会社菅野工務店で、市の説明と違って「抽選」で選ばれたにすぎなかった。
そして案の定というべきか、除去業者の環匠(埼玉県川越市)が吹き付けアスベストを取り残していたにもかかわらず、それに気づかずに元請けの菅野工務店が解体に入ってしまい、飛散させた。その結果、関係者が一致して証言するように「現場一帯にアスベストが散乱している状態」となってしまった。
これを適切なアスベスト対策にもとに除去・撤去することが必要となったのだが、こうした工事は通常のアスベスト除去に比べ、難易度が高い。なぜなら通常のアスベスト除去工事であれば、はりや天井、柱というように、ある程度アスベストがある場所が特定しやすいのに対し、工事の失敗でいたるところにアスベストが散乱している現状では、逆にすべてに注意が必要となり、作業をするために現場を密閉する養生1つとっても容易ではない。
対策工事の難しさについては石巻市災害廃棄物対策課課長補佐の鎌田清一氏も「解体したガラにアスベストが混じっている。吹き付けてあるものを除去するだけではない特殊な業務になる」と認める。そうした作業をいかに適切にするかといったあたりにノウハウがある。
さて、ここで冒頭の疑問である。石巻市はそうした困難な工事をなぜ、除去工事を失敗した業者に再度委託したのか。同市の鎌田氏はこう説明する。
「近隣住民への安全確認の問題もあり、緊急性があった。現場をわかっているということもある。また家屋解体と処理についての国の補助期間もかかわっている。現在の計画では来年度中に解体物の2次処理をすることになっており、それに間に合わせるために今年度中に解体まで終わらせなければいけない。どうしたら早くアスベストを除去して解体に入れるか検討し、前回やった業者が除去した方が早いんじゃないかと考えた」
市が環匠と随意契約したのは10月30日。飛散事故からすでに2ヵ月が経過しており、いまさら緊急性を理由にすることには無理がある。事故後すぐに対応してもらったと言いたいのだろうが、現場に市販の飛散抑制剤をまいて、ブルーシートでおおうだけなら誰にでもできる。それから正規の手続きできちんと発注することは十分できたはずだ。
ましてや前回、通常の工事ですら適切にアスベストを除去できなかったのである。多少この現場を知っているからといって、新たに実施するさらに難しい除去工事が適切にできると判断する理由にはなるまい。