「自分らしくあること」へのこだわりが、
かえって生き方の柔軟性を奪うことに

 ここで「自分らしさ」にこだわりすぎた人の話をします(個人を特定できないよう詳細は変更してあります)。

 1さんは、中学校のときに授業で見た絵画に魅了され、様々な絵画を見に行き、自分でも絵を描きたいと思い、そういった専門学校に進学しました。

 周りは「絵は趣味にしておいたら?」などと言いましたが、1さんは、「絵画を仕事として生きていきたい」「きっとそれが自分らしさだ」と考えました。

 そして、専門学校卒業後は、学生時代にアルバイトして貯めたお金で専用のアトリエをつくり、自分の納得のいく制作環境を整えました。自分の描きたい絵だけを描いて生きて行く準備は万端整いました。

 ところが、やはり道は険しいものです。

 自分の描きたかった作品はなかなか売れず、親に言われて描いた「受けそうな」「買いやすい」小さなサイズの絵が少し売れるだけでした(それでも十分凄いと思いますが)。

 アトリエの維持費や絵の具代、自分の生活費はアルバイトでまかなうしかないのですが、そうすると思ったタイミングで絵画に専念できません。

 だんだんと、1さんは「自分は何でこんなことをしているんだろう」と悩むようになり、やがてあんなに楽しかった絵を描くことすら苦痛になり、うつになってしまいました。

「自分らしくあること」へのこだわりが、かえって1さんから生き方の柔軟性を奪った結果とも言えるのではないでしょうか。