越川 「トップ20%リーダー」は、「今年の目標を達成するリーダー」なんです。一方の「トップ5%リーダー」は、「毎年目標を達成し続けるリーダー」。「緊急度」という軸を強く意識する「トップ20%リーダー」に対し、「トップ5%リーダー」は「緊急度」とともに「重要度」という軸も持ち、2軸で未来を考えます。
今年の目標を達成しつつ、来年、再来年も目標を達成し続けるためには、「手放すべきものを手放し、目標を達成し続けるために必要なことをしなければならない」と、メンバー育成に力を入れているんですね。
プレイヤーとして、明日終えなければいけない仕事を自分でやったほうが早いのは、本当にその通り。でもそれをやっていたら、ずーっとその繰り返しになってしまう。「トップ5%リーダー」はそれをわかっているから、「優秀さを自ら手放す」という決断ができるんです。
前田 なるほど。たしかに、直近の数字を最大化するよりも、たとえ目標達成率を多少犠牲にしたとしても、メンバーの自走力を高めるほうが、長期的にはメリットが大きいですよね。
一方、管理職がプレイヤーとしてゴリゴリ数字を稼いで、直近の数字を最大化すれば、メンバーも「さすが課長!」と思うかもしれないし、管理職も「有能感」や「達成感」を得られるかもしれない。でも、それって、長期的に見れば、自分の首を締めているようなものなんですよね。
「実績」と「実力」を履き違えない
越川 まさにそうです。だから、ぼくは、「管理職は優秀さを手放すべき」だと思っているんですが、前田さんはさらに一歩踏み込んで、『課長2.0』で「『自分は平凡』と思う人ほど、優れたマネジメントを行う」と書かれています。
これは、インパクトのある表現ながらも真理だなと感じました。「優秀さを手放す」どころか、「自分は平凡だ」と思っているくらいがちょうどいい。これが前田さんの「課長観」なんですね。
前田 はい。実際、現場の仕事については、どう考えたって、若い子のほうが優秀ですよ。手も早く動かせますしね。役職が上がっていくとともに自身の年齢も上がっていきますから、自分が劣化していくのが嫌でもよくわかります。体力の面でも、仕事の速さの面でもそうですね。
そこで、自分のポジションを守るために、「よし、なるべくメンバーに情報を渡さないようにして、動きづらくしてやれ。オレの優秀さを思い知るがいい」とやってしまう上司もいないわけではない。でも、こうなっちゃったらもう終わりです。メンバーを育てるどころか、足を引っ張ってるわけですからね。
そうじゃなくて、自分の劣化を自覚しつつ、「自分みたいな劣化したヤツがみなさんのためにどれだけ動けるか」と考えるくらいでちょうどいいんだと思うんです。ぼくが『課長2.0』に記した「平凡さ」は、「謙虚さ」と言い換えられるかもしれません。「ぼくに任せてください、ぼくやりますよ」とゴリゴリ仕事を進めて、ガンガン結果を出してくれるメンバーは決して脅威ではなく、ありがたい存在だと感謝するのが本来の姿なんですよ。
越川 まったく同感ですね。『トップ5%リーダーの習慣』を執筆するにあたって、さまざまな企業で成果を出し続けるリーダーとウェブ会議でお話させていただきましたが、全員に共通するのはとにかく「謙虚」な点です。
めちゃくちゃ忙しいはずなのに「忙しい」なんて一言も言わず、ぼくのような第三者のヒアリングにも親切に協力してくれました。しかも、自分の優秀さをひけらかすようなところは一切なく、ただひたすら、ぼくの問いかけに真摯に答えてくださるんです。
前田 なるほど。
越川 それで、「なんでこんなにも謙虚なんだろう?」と思って、彼らを観察していて気づいたんです。彼らは、「運と実力の見極めができる人たち」なんですよ。
前田 「運と実力の見極め」ですか。
越川 はい。「トップ5%リーダー」は、「自分の成功の8割以上は運だ」と言い切っています。一方、その他大勢のリーダーは、「自分の成功は自分の実力によるものだ」と考えているんですね。この差は大きいですね。
自分の「実績」を「実力」なのだと勘違いしないマインドも、「トップ5%リーダー」に共通する点です。これって、おそらく「物事を客観視する」能力が高いということなんでしょうね。だからこそ、「運をより確実に引き寄せるためにはどうしたらいいのだろう」と考えて、自分以外のメンバーの育成に力を注ぐというクレバーな判断もできる。その結果、チーム全体が成長し、大きな成果を得ることができるんですよ。
(第2回に続く)