トップ起業家らも通う「リーダーの学校」
「いったいどうすれば、メンバーのモチベーションを高められるんだろう?」
「どうしてやる気のないメンバーが生まれてしまうんだろう?」
「なぜ彼らは“たるんで”いるんだろう?」
そんな悩みを抱えていたときに巡り合ったのが、今回『チームが自然に生まれ変わる』という本を一緒に書かせていただいた李英俊(リ・ヨンジュン)さんでした。
李さんの主宰する「Mindsetコーチングスクール」には、若手起業家たちや大企業の次世代リーダーらが多数参加していました。OB/OGのなかには有名な経営者もたくさんいます。藁にもすがる思いでこのプログラムに飛び込んだ私は、李さんはもちろん、受講者仲間たちからも、ものすごい刺激を受けることができました。
何よりも感動したのは、李さんの理論が徹底的に「認知科学」の成果を踏まえていたことです。認知科学とは、ごく簡単に言えば、人間の「ものの見方」に関する研究分野で、20世紀の半ば以降に生まれた比較的若い学問です。
この学問の特徴は、心理学・哲学・神経科学・言語学・人類学・教育学などにまたがる学際性で、なかでもその成立・発展にとって重要だったのが、私が研究者時代に専門としてきた情報科学や人工知能研究でした。だからこそ、「認知科学に基づいたリーダーシップ論」は、私にとっても大きな納得感があったのです。
「行動」ではなく「認知」を変える
人のパフォーマンスを高めたいとき、従来のリーダー論は人の「行動」を変えることを推奨します。
これは経営学などのリーダーシップ研究にも見られる傾向です。「パフォーマンスの高いリーダー人材はこのような行動特性を持っている。だから、こうした行動を『模倣』すれば、優秀なリーダーになれる」というわけです。
しかし、それではリーダー自身もその部下も変わりません。
知識で説き伏せたり、データを押しつけたり、責任や報酬をちらつかせたり、叱ったり脅したり、褒めたり励ましたりすることで、しばらくは何か効果があるかもしれません。
しかし、こうやって無理に行動を変えたとしても、当人の認知が変わらないかぎり、必ず「元どおり」になるように人間の脳はできています。
むしろ大切なのは「ものの見方」です。認知科学的に言うなら「内部モデル」です。
その人の「認知」が変わりさえすれば、「行動」はおのずと変化します。
私はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けました。
「メンバーのモチベーションが足りていない」と考えていた私自身が、いかに本来やるべきことをやっていなかったかに気づかされたからです。
リーダー仕事とは、メンバーたちの認知を変えることです。
彼らに見えている「景色」を変えることです。
それができていないとき、職場で働く人々のあいだには「熱量の差」が生まれます。
そもそも人や組織を動かすうえで、人間の認知プロセスを無視することには、どう考えても無理があります。その意味で、李さんの理論は、まさに人の脳の仕組みから本来的に帰結する「自然体のリーダーシップ」そのものでした。
チームが自然に生まれ変わった!
李さんのメソッドを自社に持ち帰った私は、およそ1年をかけて少しずつチームを立て直していきました。
その結果、危機を乗り越えたシナモンAIは、大きな成長を遂げました。2021年には、全世界を対象とした「最も有望なAI企業トップ100」に選出されるほどの組織に生まれ変われたのです*。
しかし、何より大きく変わったのは、リーダーである私の目に映る「景色」でした。
「チームがたるんでいる」「モチベーションが下がっている」というのは、私の単なる思い込みでした。もし私がそんな認知にとらわれたままだったら、メンバー全員が高い熱量を持って動き続けるチームを実現することはできなかったでしょう。
私はこのプロセスを通じて、初めて「リーダーになれた」のだと感じています。そう、たしかに以前の私はリーダーではありませんでした。たまたまリーダーの職位にあっただけで、その内実は「テクノロジーが好きな技術者」を脱しきれていなかったのです。
世の中には、以前の私と同じ壁にぶつかっているリーダーがたくさんいるはずです。チームの規模は関係ありません。大企業の経営者でもベンチャー起業家でも、あるいは、中間管理職でもチームリーダーでも、向き合うべき課題の構造は同じです。
「部下のモチベーションが低い……」
「チーム内の熱量にばらつきがある……」
そう悩みながら、彼らの行動を変えようと何か対策を打つものの、なかなか効果が出なくて絶望感を抱いている人は、ぜひ「認知科学に基づいたリーダーシップ」を取り入れてみてはいかがでしょうか。