新型コロナの緊急事態宣言は解除されたが、今後、企業のテレワークは定着していくのだろうか。そのキモとなるのが「テレワーク下のマネジメント」の問題だ。これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その課題さえクリアになれば、テレワークは、マネージャ―にとっても部下にとっても生産性のあがる働き方として、定着していくに違いない。パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、テレワーク下のマネジメントの課題の具体例を提示し、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏がその解決策を執筆した本が『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。

チーム作りには<br />あえて「混乱する時期」が<br />あったほうがよい理由Photo: Adobe Stock

「仲が良い」だけでつながっているチームはもろい

 めいめいが離れた場所で働くテレワーク化という局面は、プライベートまでを共にした”社宅時代”から180度の転換です。日本人の得意技である“阿吽の呼吸”に頼れなくなったいま、新たなチームビルディングのあり方を模索しなければなりません。

 以前、「プライベートで仲の良い組織ほどテレワーカーは孤独になる」というお話でもお伝えした通り、一緒に過ごすことで無意識のうちに仲良くなったチームというのは、ビジョンもミッションも共有していません。共有しているのは“空気感”だけです。

 だから距離的に離れたときに、関係をつなぎ止めておく方法がわからなくなってしまうのです。愚痴や噂話を共有することによってのみ仲の良さを保っているチームも同じです。

 メンバーがお互いに理解し合い、誰もが安心して要求を言葉にでき、ぶつかり合いを乗り越えた末に高いチームパフォーマンスを発揮できるようになるには、戦略的なチームビルディングが必要です。

タックマンのチームビルディング

 そのための参考になるのが、心理学者のブルース・W・タックマンが1965年に提唱した「タックマンモデル」でしょう。この手法は、会わずして関係性を築かなければならないテレワークにおいても有効です。

 タックマンモデルでは、チームを次の4段階に分けます。

形成期(Forming)…チームが形成される時期
混乱期(Storming)…ぶつかり合いが起きる時期
統一期(Norming)…それぞれの役割や共通の規範が明確になる時期
機能期(Performing)…成果を出せる時期

 この4つの時期を経て、チームは最高のパフォーマンスを上げられるようになるという考え方です。

混乱期の創出がカギ

 チームが立ち上がって軌道に乗り、なんらかの壁にぶつかるまでの「形成期」は1~3ヵ月です。

 その後、人間関係における葛藤が起きるなどして「混乱期」に入ります。この「混乱期」がどれくらい続くかは、マネージャーの手腕にもよるので、なんとも言えません。最悪のケースでは、混乱期のまま崩壊することもあり得ます。力のあるマネージャーであれば自ら「混乱期」をつくり出し、短期間で収束させて「統一期」にもっていきます。

 もともと、日本人は「混乱期」が苦手ですが、テレワーク下では、特に「言いたいことを言い合う」ということを抑制してしまいがちなので、ここをどう創出するかがポイントになります。

 混乱することは悪いことではありません。混乱しているときに、その状態のまま、取り繕うことの方が問題です。混乱し始めたら、一度、立ち止まって全員で思いをぶつけ合いましょう。

 そして一般的には3~6ヵ月ほどの「統一期」を経て、チームが最高のパフォーマンスを発揮できる「機能期」に入ります。

「タックマンモデル」はチームの人数にかかわらず適用できますが、本書の第2章でお話しした通り、最小単位のチームの人数はマネージャーも入れて5人がベストでしょう。

 では、50人の部署では「タックマンモデル」が通用しないのかというと、そんなことはありません。最小単位の1チームをひとりの人間だと考えてください。「個人と個人の間で心理的安全性を築き、目的を共有し、葛藤を乗り越えて良きチームになっていく」という過程をチーム間で行っていくのです。チーム間には共通の目的もあれば、利害関係もあります。けれども、率直に要求し合い、衝突しても乗り越えていくことで、部署としての強さを引き出すことにつながっていきます。

 本書では、テレワークのマネジメントに必須のICTを使ったコミュニケーションの方法についても詳しくお話ししています。リアルでのコミュニケーションとは違った方法論が必要です。どうぞ、ご参考にしてください。