組織も業務も粉々にして、情報が横につながる仕組みへ
谷本:日本は自然災害が多い国であり、直近では新型コロナウイルスによるパンデミックが起こりました。これまでの取り組みを振り返って、国は今後、どこに手をつけていくべきだと思いますか?
石倉:まずは、情報の縦割り管理を変えなければなりません。これまでは、それぞれの組織が使いやすいようにデータを集め、分析してきた。それが積み重なって、どこにもつながらないデータになっているんです。本来、デジタルは「壁を越える」「つなぐ」ことが重要だと思うのですが、今はそれが実現されていません。地方自治体と中央省庁もつながっていませんし、民間企業と政府もつながっていません。その状況を変えることが大切です。
一歩引いて見れば、仕事の仕方も縦割りだったんですよね。官庁でプロジェクト型の仕事をしたことがある人はほとんどいません。プロジェクトは、横につながる仕事の仕方ですから。近年、盛んに「ダイバーシティ&インクルージョン」と叫ばれますが、デジタル庁はまさにそれがコンセプト。しかし動き出してみると、民間企業と官庁とで仕事の仕方がまったく異なり、民間企業の人はあぜんとしています。どこで何を決めるのか、責任者は誰なのか、いつまでに何を見て、何か起こったときはどうやって対処するのかという、プロジェクトマネジメントの基本が官庁にはないんです。プロジェクトマネジメントの経験不足は、日本が解決すべき問題でもあり、伸び代がある部分でもあると思っています。
谷本:DXを大きく推進するために、安宅さんは何が大切だとお考えですか?
安宅:ポイントは3つあると考えます。ひとつは、変革の中心的な部隊はデジタルな人材だけで進めることです。ニューエコノミーとオールドエコノミーとでは、思考回路がまったく違うんですよ。ニューエコノミー側と第三種人類のどちらか、もしくは混ぜたチームで進めることが大事です。
2つ目は、徹底的に粉々にすること。石倉さんがおっしゃったように、デジタルはつなぎ合わせる力や溶かす力が非常に強いんですよ。そのため、組織も業務もできるだけ粉々にする。これができる状況を「粉々able(こなごなあぶる)」と呼んでいます。
3つ目のポイントは、ミニマム必要なものだけを作ってゲリラ的に実行すること。そして、データは徹底的に標準化して「つながる」ようにすることです。国など公的な存在はウォーターフォール的なグランドデザインから考えがちですが、それは無理な話なので、まずは「ゲリラ」と「標準化」だけでいいんです。サービス・レベル・アグリーメント(サービス品質保証)の発想も大事なんですが、デジタルの世界では割り切ることも必要になってきます。間違いを恐れない、徹底的に急ぐ、アジャイル。Facebookが世界的なトップ企業になるまで掲げていた「Move fast and break things」というモットーと、基本的には同じ考え方でいいと思います。