DX推進のカギは、社員一人ひとりのビジョンと知の探索に
谷本:日本がDXを進めていくためには、企業トップのリーダーシップや危機感が必要なわけですが、動き出すためにはまずどこに手をつけるべきでしょうか?
損害保険ジャパン株式会社 執行役員待遇 DX推進部長/一般社団法人 情報支援レスキュー隊 理事
1999年日本アイ・ビー・エム(株)入社。以後、同社東京基礎研究所において研究に従事後、2016年1月より同社ワトソン開発に異動、自然言語処理関連の製品開発リードを担当した。2021年に損害保険ジャパン株式会社に転職、損害保険のDXを推進している。ITを活用した災害からの復興や減災、リスク管理を実現する「レジリエント工学」にも関わり、2015年には一般社団法人 情報支援レスキュー隊を設立、理事に就任。2021年より京都大学防災研究所客員講師も兼任している。訳書として「情報検索の基礎(共立出版)(共訳)」「Google Hacks 第2版、第3版(オライリージャパン)(共訳)」がある。
村上:石倉さんのおっしゃった「データがあっても使い道がわからない」という課題は重要なポイントだと思います。それはつまり、社員一人ひとりにビジョンがないということですから。リーダーだけでなく、一人ひとりの社員に「これをしたい」「こういう世界を作りたい」というビジョンがなくてはなりません。
今までの日本の大企業は、トップが決めた戦略に従って社員が兵隊のように動くというスタイルでした。それではデジタルの世界のスピードに追いつけません。目の前にある課題をどうしたいのか、一人ひとりがビジョンを持つことが非常に大切です。
加治:私たちの中には、徐々に危機感が醸成されてきていて、アクションも起こしはじめているのですが、そのアクションの起こし方が前近代的な仕組みに縛られているのではないかと感じます。その象徴が縦割り組織。重要なのは横にどう広げていくかという視点です。たとえば、日立の場合は家電から発電所まで幅広く手がけており、それらの共通プラットフォームとしてLumadaを作りました。高度経済成長期には「知の深化」をずっとやってきた。成長のルールが見えていたからです。先が見えにくい、いわゆるVUCAの時代にはその習慣を「知の探索」側に向けて、横にどう広げるかという発想の転換をすることが重要だと思っています。
谷本:技術開発も重要ですが、カルチャーチェンジも必要ですよね。しかし、それは簡単にできるものでもないと思うのですが。
安宅:あまり難しくないと思いますよ。江戸時代にあった幕府と藩は消え、終戦時には若い人たちが新しいことを仕掛けて新しい会社が続々と生まれた。つまり、次の世代の企業を生み出せるかが問われているわけで、それが大企業の仕事だと思います。実際に古河電気工業がジーメンスと富士電機を作り、さらに富士電機が富士通を作ったように、次世代を生み出せるのが本当に意味のある大企業です。それを実行できるだけのパワーと信用と人材を持っているんですから。