パンデミック、災害――迫りくる未来の課題を解決できるのはデジタルだけ
Forbes JAPAN Web編集長
証券会社、 Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBAを取得。 その後、 日経CNBCキャスター、 同社初の女性コメンテーターとして従事。 これまでに、 トニー・ブレア元英首相、 アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、 オードリー・タン台湾デジタル担当大臣、ハワード・シュルツ スターバックス創業者はじめ、 3000人を超える世界のVIPにインタビューした実績がある。 2016年2月より『フォーブスジャパン』参画。政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員、複数企業の顧問、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究所 アドバイザリーボードメンバーとしても活動。
谷本:次に、日本という国のDXに期待することや、DXを推進するために何をすべきかというテーマで話を伺っていきます。まずは石倉さん、デジタル監になられた今、お考えになっていることを教えてください。
石倉:デジタル化を進めなければ日本の将来はない、と私は考えています。その基盤にあるのがDXです。これを民間と政府でなんとかやっていかなければなりません。日本全体のデジタル競争力は27位とされていますが、行政に限ればもっと順位は下がります。日本政府のデジタル化はまったく進んでいないんです。かつて技術大国としてもてはやされていた時代を知っている私からすると、「一体どうしてしまったの?」と大きなギャップを感じます。
先ほどリーダーの危機感について話が出ましたが、大半の経営者に危機感がないと思っています。外の世界がよく見えている一部の経営者は「このままではいけない」と考えているでしょうけど、それ以外の人は「このままで本当に大丈夫なのか」と真剣に考えていない気がするんです。それでは生き残れるわけがありませんよね。
私はずっと「デジタルはこれからの社会を、そしてあらゆる側面を大きく変える原動力」だと思ってきました。変化するときは、いいことも起こりますが、とんでもないことも頻繁に起こります。光と影のように、よい面と悪い面はセットで出てくるんです。しかし、動かなければ何も見えません。新しいことを始めて出てきた問題を騒ぎ立てる人が現れ、「やめよう」という結論に至ることは絶対に避けたい。デジタル化できなければ、「昔、日本という国があったよね」と言われる未来がやってくるでしょう。
安宅:そもそもデジタルやAIというのは、先ほども申し上げましたが、電気に近いレベルの非常に普遍性が高く、どのような領域、機能にも染み入って変容を迫るタイプの技術革新です。これによって、あらゆる産業や領域が組み変わっていきます。それがまさに今起こっている。その結果、産業の壁は壊れて、主たるプレイヤーが入れ替わっています。新聞を読まなくなってスマホでニュースを読んでいる皆さんが毎日体験していることですよね。
かつて、日本の1人あたりGDPはG7トップで、1997年にアメリカに留学すると「なぜこの国にわざわざ来たんだ」と問われるほどでした。あれから25年間、言ってみれば日本は「変化に目を向けず、ただ寝ていた」から今の状況になった。それだけの話です。もはや「デジタル」などと言っている場合ではありません。今後はパンデミックや災害がすさまじい勢いで増えていくことが確実視されています。その未来に向けて、パンデミック・レディ(pandemic-ready)かつディザスター・レディ(disaster-ready)な社会を作らなければなりません。そのために、デジタルも含めた新しい技術を全活用する。それがこの局面での国の正しい姿です。
20〜30年後、私たちが今と同じように生きていける可能性はそう高くありません。言い換えれば、今は「どうやってサバイブしていくか」が問われている局面です。あらゆる産業と社会を刷新することが求められています。たとえば、大きな天災が来て、霞ヶ関に人がひとりもいられない状態であっても、必ず機能するようにしておかなければなりません。あるいは災害が起こった際、誰がどこにいるのかリアルタイムに把握する必要がある。それらを実現させるためには、絶対にデジタルの力が必要です。デジタルにしかできないんです。そのために民間と国とが力を合わせ、必ずやり抜かなければなりません。
課題はあるので、解決に向けて動いていく。そうしていけば、自然と国はアップデートされていきます。「デジタル化」などと言うのはやめて、「私たちが今向かっている課題をデジタルで刷新する」と捉えなければ、私たちの社会はよくならないでしょう。問題の解き方を変えなければいけない。子どもや孫のために何ができるかを考えて刷新していくことが、私たちのやるべきことだと思います。
シナモンAI 取締役会長兼CSDO/日立製作所 Lumada Innovation Hub シニア・プリンシパル/鎌倉市スーパーシティ・アーキテクト
富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBA修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会等を経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張等を担当後現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。読売マーケティング賞審査委員長、日経広告賞審査員なども務める。
加治:安宅さんがおっしゃった問題意識が、全人類にとっての共通の大きな問題だと思っています。まず注目していただきたいのはCOP26です。気候変動に向き合う際、「緩和と適応」というアプローチがありますが、これに加えて外交や安全保障も組み合わせたほうがいいのではないかと考えています。というのも、地政学的な部分と企業活動・経済活動が非常に近くなっている状態が加速しています。クアッド(QUAD)やオーカス(AUKUS)なども、世界の地政学を前提に組み立てられています。こういった枠組みと、サプライチェーンや人の交流は不可分。地政学と経済活動についても、民間と政府が胸筋を開いて議論を酌み交わせる仕組みができたらいいですね。
多くの方は、水と平和と空気は無料だと考えていますが、そうではありません。これまで維持しつづけてきた平和を守るために、私たちは企業戦略を理解するだけでなく、外交的な視点や気候変動の視点を入れていかなければならないと思います。
村上:先ほど災害の話が出ましたが、損害保険の会社こそ変わらなければなりません。これまで過去のデータだけを見て保険料の算定を行ってきましたが、サバイブするためには未来を予測しなければならない。そのためには、デジタルを道具として使う必要があるでしょう。
また、私はITの力で災害復興や生活再建の支援を行うボランティア団体「情報支援レスキュー隊」の理事も務めています。災害支援で重要なのは情報なんです。今は情報がサイロ化していて、国は国、ボランティア団体はボランティア団体といったように分断してしまっています。一分一秒を争う被災地で、各団体が情報を共有できていないために、時間がかかってしまうわけです。サイロ化を解消する手段のひとつがデジタルだと思っています。