正直、若手の扱いに悩んでいる。
若手をどう育てていいかわからない。
優秀な若手から辞めてしまう…。
企業の人事担当者やマネジャーは、20代の若手育成に悩んでいる。
「20代の成長環境」がある企業ランキング4位
(2020年、エン・ジャパン調査)に選ばれ、
学生からも「入社したい企業」として人気が高いサイバーエージェント。
そのサイバーエージェントで、2005年の人事本部長就任より、
のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わっている、
書籍『若手育成の教科書』の著者でもある曽山哲人氏に、
若手の心を動かす「抜擢セリフ」のつくり方について伺った。
(構成/ダイヤモンド社・和田史子、著者写真撮影/増元幸司)

書籍『若手育成の教科書』著者・曽山哲人氏に聞いた、若手の心を動かす「抜擢セリフ」のつくり方若手の心を動かす「抜擢セリフ」のつくり方とは? Photo: Adobe Stock

抜擢セリフはシンプルが一番。
そのまま誰かに話せるものを

抜擢セリフで大切なのは「手短に、シンプルに、自分が言われてうれしいことを伝える」、この一点に尽きます。

言われた相手の記憶に残り、そのまま誰かに話せるものです。

前回の記事で紹介したとおり、上司の伝え方ひとつで若手の「自走スイッチ」はONにもOFFにもなります。

若手が自ら動くことが若手育成のキモですので、上司の皆さんはしっかり「抜擢セリフ」を伝えて、彼らの「自走スイッチ」をONにしなければなりません

皆さんにも経験があるでしょう。

何かのリーダーを任されたとき、何か大きな仕事を任されたとき、上司から言われた一言を今でもはっきりと覚えているという人は多いはずです。

言ったほうはすっかり忘れていても、言われた本人は、そのときのことを鮮明に覚えているもの。

うれしくて家族や友人に話したり、振り返り面談などで「自身のブレイクスルーはあのときだった」などと話したりするときに出てくる言葉のことです。

実際、優秀な経営者と言われる人は皆、大事な場面で「抜擢セリフ」を部下に伝えています

忘れられない、私の経験をお話ししましょう。

営業本部長だった私は、ある日突然、人事のトップに抜擢されました。

社長の藤田からこう言われたのです。

「人事を強化したいから、人事本部を設置することにした。(目的・意味づけ)
曽山くんに人事本部長になってほしいんだけど、どうかな?(期待)

この藤田の言葉に、私はまず「ぜひ、やらせてください!」と即答(宣言)しました。

とはいえ、今、営業部の責任者として自分が手がけている仕事から離れてしまっていいものかと思い、「営業部が心配です」と藤田に伝えました。

すると、藤田は次のように返したのです。

「それは心配だけど、でも人事をもっと強化してもらうほうがいいんだよね」
この抜擢セリフは、今でもはっきり覚えています。

抜擢される側の不安は、未知の分野でのチャレンジに対するものではありません。

新しい挑戦はワクワクするものです。ぜひともやってみたいと思いました。

とはいえ、今任されている仕事を無責任に放り出せないという責任感からくる不安もありました。

そこを藤田は「それは心配」と同意しつつも、「あなたにはもっとやってほしいことがある」と期待をかけることで、私の背中を押したのです。

この藤田の抜擢セリフが、私のキャリアのターニングポイントになりました。

一度心に刺さった言葉、これこそが「抜擢セリフ」です。

「抜擢セリフ」一つで、若手の自走スイッチが入るかどうかが決まります。

テンプレートのように全員同じことを言っても刺さりませんし、嘘やお世辞もバレます。

若手が「自分のことを思って、上司がかけてくれた言葉」だと感じてくれるような「抜擢セリフ」を伝える。

今の時代の上司に必要なスキルの一つと言っても過言ではないでしょう。

曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏

1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。

2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。