記者会見で田中さんは、「全く同じ立場で戻ってくることができる演劇界であれば、セクハラ・パワハラするデメリットが何もないのでは」と話した。

 業界内での議論を「罪を償った者の社会復帰を認めるべきだ」でとどめることなく、もう一歩進めてほしい。被害当事者の視点を尊重しながら議論が行われる過程に、意味があると考える。

広河隆一作品が使われた『男はつらいよ』最新作

 第44回日本アカデミー賞(2021年3月発表)の複数部門にノミネートされた『男はつらいよ お帰り寅さん』(山田洋次監督)では、2018年に複数の女性から性暴力を告発された報道写真家・広河隆一氏の写真が使われていた。

 これについての指摘は、『ハラスメントの中で生まれた作品をどう評価すればいいのか』(西口想/現代ビジネス/2021年3月28日)で行われており、SNSなどネット上でも複数の批判が見られるが、山田洋次監督はこの件について説明を行うまでには至っていない。

 映画界の大御所がこういった性暴力、ひいては人権に関する問題をスルーできるだけの状況が日本の文化の中にはまだある。虐げられた者の声を無視しない、足元からの議論を求めたい。