「罪を償った者の社会復帰」が問われているのではない

 話は変わるが、先日、東京地裁で行われた民事訴訟と、その後の記者会見を取材した。

「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」代表の知乃さんと、副代表の田中円さんが、演出家の男性A氏から名誉毀損で訴えられている。

“性暴力”映画監督の追悼上映が中止、「作品に罪はない」論争に新たな視点会見する知乃さん(中央)ら

 A氏は、演劇指導を行っていた未成年の少女に対してわいせつ行為を行ったとして児童福祉法違反で逮捕され、2014年に懲役2年の実刑判決を受けた。出所後、活動を再開している。

 2018年にA氏が原作・脚本・演出・音楽・主演を務める舞台が公開されることが発表され、知乃さんらの元に疑問の声が届いたことをきっかけに、「なくす会」では署名活動や制作会社への公開質問状をネット上で展開した。このときの公演は中止されたが、2019年にはA氏が脚本などを務める別の舞台が企画され、予定通り公演が行われている。

 名誉毀損の提訴は、「なくす会」が行ったこれらの署名や公開質問状に対して行われたもので、知乃さんらは500万円の慰謝料などを求められている。

 この件で、演劇業界の中では「罪を償った者の社会復帰を認めるべきだ」といった声があると聞く。「なくす会」の活動に疑問を呈すものである。

 しかし、この件を「罪を償った者の社会復帰を認めるべきか否か」に置き換えるのは、問題のすり替えだと感じる。知乃さんが法廷で読み上げた陳述書の中には、「せめて表舞台ではなく、裏方で戻ってくるということも検討されるべきではなかったでしょうか」という一文があった。問題は社会復帰ではなく、未成年へ性加害を行った者が、同じ立場で現場に復帰することへの懸念である。

 先に触れたように、性暴力のほとんどは、権力勾配の下で行われる。一般論だが、自分の権力性に気付かずにハラスメントを行った人が、そのまま同じ権力を持つ場に戻るのであれば、懸念が示されて当然だろう。研修や再発防止プログラムなどを受けて学んだのであれば、それを行ったという説明を公に対してすべきだと考える。エンターテインメント業界のように人前に立つ仕事であれば、なおさらではないか。