会社の方針で仕方なく1on1ミーティングを始めた、というマネジャーに話を聞くと、多くの場合、部下と対話を始めてみると、それまで知らなかった一面が見えてくるなど効用があるという声が寄せられる。しかし、一方の部下/メンバーは、どう感じているのか。「話せてよかった」と評価する向きがある一方で、「上司と1対1で話すのは抵抗がある」「できれば1on1なんてやりたくない」という否定派もいるだろう。100社に1on1を導入してきた由井俊哉氏の著書『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』では、企業事例の中で、多くの「部下/メンバーの声」を紹介している。果たして、対話に成功している組織では、部下/メンバーは1on1から何を得ているのだろうか。(構成/間杉俊彦)
「1on1はメンバーの成長につながる」と説明すると研修参加者の目の色が変わる
前回は、マネジャーの皆さんが読まれることを意識して、こう問いかけました。
・あなたの部下は、何でも安心して話してくれますか?
・対話と言いながら、ほとんどあなたが話しているだけになっていませんか?
・メンバーが本当にやりたいことを知っていますか?
『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』はマネジャーの方々をメイン読者と想定してつくりましたし、私が手がける1on1ミーティングの導入研修も、その多くがマネジャー層を対象とするものです。つまり、望まれているのは「部下の話を聞く」側のスキルアップです。
1on1ミーティングの目的には、いろいろなものがあります。私が制作に関わった書籍『ヤフーの1on1』で、著者の本間浩輔さんは、このように書かれています。
「いくつかある1on1の目的のうち、何を中心に考えているかと私が問われた場合には、まずは『社員の経験学習を促進するため』であると答えます」(同書54ページ)
業務の経験は、そのままにしておけば「実」にならない。必ず振り返りを行い、上司が適切なフィードバックをすることで、次の機会に生きるナレッジとなる。これが「経験学習」の考え方ですが、ヤフーはそのことを1on1における最も大事な目的としているのです。それは、普遍的なよい手法である、と私も考えます。
つまり、1on1が何に効くかというと、まず「部下/メンバーの成長につながる」ということ。ここを解説すると、研修参加者の目の色が変わってきます。そして、よりよい対話、すなわち部下/メンバーが「自分の思うこと、考えていること」を忌憚なく話してくれるための傾聴のしかた、質問のしかた、否定せず受け入れた上でのフィードバックのしかた、と研修プログラムは進んでいきます。
「1on1なんて、業務の役に立つのだろうか?」と半信半疑の受講者は、今も少なからずいますが、研修を終え、現場で実際にトライしてみると、多くの方がその効用を実感します。「部下/メンバーと積極的に関わることで初めて見えてくる課題が、気づきと成長の機会になった」との声を、私自身よくいただいています。
リモートワーク環境になって始まった、リクルートエージェントのコミュニケーション改善施策の本気度
その一方で気になるのが、1on1に臨む部下/メンバーの側は、それをどう感じているか、ということです。
私の経験では、1on1導入後にアンケート調査をすると、メンバー側の約8割から肯定的なコメントが寄せられます。
「1on1の時間を取ってもらえてよかった」
「上司との関係がよくなり、仕事がやりやすくなった」
これが典型的な肯定評価です。
このような部下/メンバーの感じる肯定的な受け止めを、もっと肉声で、具体的に聞いてみたい。このように考えて『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』では、実践事例を紹介する中で、多くの部下/メンバーにインタビューし、その反応を掲載しました。
ここでは、事例企業の1つであるリクルートの若手社員の声を、いくつかご紹介したいと思います。
リクルートキャリア(2021年4月よりリクルートに統合)のエージェント事業本部エリア統括部では、リモートワーク中心になった2020年度第1四半期から、コミュニケーションの改善施策をスタートしました。ES(従業員満足度)アンケートの結果分析から、周囲とのつながりが希薄になったことで、職場コンディションが低下したことがわかったからです。
その時に、エリア統括部が選択した手立てが1on1ミーティングでした。もともと1on1を実施していたということもありましたが、それを「磨き込む」ことによって、コミュニケーションの活性化を図ったのです。
結論からいうと、この施策が功を奏し、対話が促進されることによって職場コンディションは改善されたといいます。次ページで、メンバーの実際の声をご紹介しましょう。