1on1に臨むメンバーはどう感じているのか?若手社員のリアルな声

 以下に、部下/メンバーの声を、『1on1戦術』からいくつか紹介していきましょう。それぞれが感じる1on1の効用を聞いたことに対する回答です。

メンバーAさん:「雑談ベースで自分がどういう状況にあるかということをざっくばらんに話せることで、重荷を一緒に持ってもらえるみたいなところがあるかな、と思っています」(同書181ページ)

 その上司であるBさんへのインタビューでは、Aさんの大事にしている価値観を丁寧に拾い上げ、互いの前提条件が共有されていることを感じました。

メンバーCさん:「普段は顧客のほうを向いてずっと仕事をしているので、どうしても視野が狭くなりがちになる、と感じています。そこで1on1で話をすることで、今の仕事の進め方はどうなんだろうとか、少し先を見据えて考えることができます。自分の立ち位置を引いてみることができる、と言う言い方もできると思いますが、週1回1時間というのは、そのように使えていると思います」(同書179ページ)

 その上司であるDさんへのインタビューでは、答えを伝えるのではなく対話の中でCさんに考えるように促す姿勢が感じられました。承認して背中を押すことによって、先を見据えて考えることが可能になっているのでしょう。

 このような1on1による対話の積み重ねが、次のようなコメントにもつながっています。

メンバーAさん:「1on1によって、僕の場合は大きな変化があって、モチベーションの変化の波がなくなり、お客さまとの向き合い方も変わってきたと思っています」(同書187ページ)

 対話のベースに信頼感の醸成があることは、いくら強調しても足りません

メンバーCさん:「一番思うのは、自分のことを理解してくれているな、と感じていることです。だから、わがままが言えます。(中略)清濁併せ呑んだうえで、これは大事だよねというアドバイスがもらえるので、そこはすっと入ってきます」(同書184ページ)

 このように信頼感が醸成される要因について、Aさんはこう指摘します。

対話の頻度だと感じます。週1回というのがキーで、昨年4月にBさんがマネジャーになって、週ごと月ごとに状態が変わる中でずっと見てくれています。その積み重ねがあるから、よくわかってくれている。わかってくれているからこそ、こうアドバイスをしてくれているのだな、という安心感があります」(同書184ページ)

上司と部下との相互の誤解も、対話を重ねることで解消できる

 ここで取り上げたのは、わずか2人の声にすぎませんが、おそらく対象となる部下/メンバーの多くが同じように「自分にとってプラス」であると感じていると思われます。アンケート調査によれば、部下/メンバーのうち77.8%が1on1が有意義な場になっている、と回答しています

 一方、組織長へのアンケートでも、「メンバーの持ち味を味わえるようになった」「メンバーの主体的な学習や行動が増えた」など、約9割が1on1の変化を実感するというコメントしたそうです。

 多くの研修事例や、現場でのヒアリングを通して、私は上司も部下も、対話を必要と感じていることを実感します。コロナ禍にあって、以前にも増して、その傾向は強くなっています。

 部下/メンバーも、仕事の話を上司としたくないとは思っていません。話すのが無駄だとも思っていない。ただ、そこには相互に誤解もあるかもしれません。上司は「話そうと思っているのにやる気がないんだよね」と思う一方で、部下は「この上司と話しても説教されるだけだしな」というように。ただリクルートエージェントの事例が示すように、対話を重ねることによって、信頼感は徐々に醸成されます。何をどう聞けばいいか、どこまで話していいものか。そんな間合いも、積み重ねることによってだんだんと見えてくるものです。

 第1回でも書きましたが、1on1を正しく扱えれば、部下は自ら成長し、チームは成果を上げはじめる。そのことをリクルートエージェントの事例は証明していると感じます。