ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』がダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

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 前回は、専門家や専門知識がアーキテクト思考による新たなアイデアの創出を妨げている理由について解説しました。

 今回は、どのようにして専門家や専門知識の呪縛を解いて新しいアイデアを生み出せるのかについて考えてみましょう。

なぜ「よそ者・若者・ばか者」が
イノベーションに必要なのか?

 アーキテクト思考に必要なのは、必ずしも「深い専門知識」ではありません。イノベーションの世界で公式のようにいわれていることは、新しい世界を切り開いていく人材は「よそ者」「若者」「ばか者」だということです。

「よそ者」つまり、業界や組織の外の人間、そして「若者」つまり経験の浅い人間、そして「ばか者」つまりそれまでの常識を気にせずに空気を読まない人間です。

 これまでの連載で述べてきたアーキテクトの素質とこれらが、ほぼ一致することがわかるかと思います。

 もちろん、抽象化するにもある程度の知識は必須ですが、度を超えると弊害のほうが圧倒的に大きくなるのです。

 また、専門知識に関しては、一部の領域のみ深い知識があって、他の領域との差が大きくなると、前回説明した専門家の罠に陥ります。多様な領域を同様に知っていること、つまり領域間の差が小さい状態であれば、広い知識を深く身に付けることは抽象化にもプラスになるはずです。

「深さよりも広さ」を優先させることが、抽象化には不可欠といえるでしょう。

 したがって逆にいえば、一つの業界や会社や業務しか知らない人というのは、専門領域は確立できますが「自分の領域は特殊だ」というマインドセットに陥りやすいために、最もアーキテクト思考とは遠いマインドセットになることになります。