ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

なぜ、日本では最上流の思考ができる「アーキテクト人材」が少ないのか?Photo: Adobe Stock

アーキテクト思考は、「多数の常識」に反するもの

 前回述べたように、アーキテクト思考とは、ビジネスにおける川上側において重要となる発想です。ではその川上とは何かを考える上では、世の中の流れを大きな視点でとらえることが必要です。社会や組織、あるいは商品やサービスというのは人間の一生と同様に、時間とともに同じような変化をたどります。

 これを川の流れに喩えれば、川上から川下へという変化によって流量が小から大、流速が速→遅、川底が大きくて尖った岩から小さくて角が取れた砂といった変化があるように、人間社会も川上と川下では様々な性質が異なるために、必要な価値観やスキルも異なってきます。

 前述の通り、アーキテクト思考は「白紙に第一歩目を記す」という、究極の川上的な思考ですが、前回述べたように「モノづくり」を始めとする社会(特に日本社会)では川下の思考が根強く浸透しています。

 アーキテクト思考はこのような「多数の常識」に反するものであることを頭に入れておく必要があります。

 そこで、まず川上と川下はどう違うのか、そしてそこで生きるための思考がなぜ異なっているのかを整理しておきましょう。これが「アーキテクト思考」のできる人が決定的に不足している理由の一つだからです。

 まずは、川の流れと人間の集団の遷移を抽象度の高いレベルでとらえると同様であるというアナロジー(類推)で考えると、実は根本的な類似があることがわかります。その一覧を下図に示します。

 川の流れにおいて川上から川下へとどのような変化が起きるかを考えてみましょう。当然のことながら水量は川上のわずかな流れから、海にそそぐときには川幅も広く水量も膨大になっていきます。

 会社等の集団も時間の経過と共に基本的に構成員や部門の数は増えていきます。もちろん、会社でも倒産や吸収合併があるように、途中で途切れる流れや「合流」も同様に川の方にも存在します。

 次に「質」の方を見てみましょう。ここでは川底の岩や石に着目します。

 川上では険しい山の中ゆえ「とがった大きな岩」が多いのに対して、河口近くではすっかり「粒の小さな大量の砂」に変わっていきます。これは、社会における人材の変化を象徴しています。「個性的な大物」が多い様々な系の黎明期に比べて、社会の成熟にしたがって、それは「多数の画一的な人々」へと変化していきます。

 これは人間の集団に対応させれば、例えば「ヒト・モノ・カネ」はわずかだが意思決定や様々な動きが速いスタートアップ企業と、それらが相対的に遅くなるがリソースが豊富な伝統的大企業との関係に相当します。