◇実質を伴う諦めは目的達成に有効だ

 言葉だけの夢を掲げて満足してしまい、夢に近づけない例は非常に多い。本人が「真剣」「本気」と言葉にしていても、人間の気持ちというのは本人でさえ正確に理解することが難しい。「夢」の強さは、どんな行動をしたかによってしか判断できない。つまり、具体的な方法やスケジュールを検討し、現在の進み具合、「実現率」を説明できるかどうかだ。実現率がある程度の数字になるものは「諦める」ものがあり、諦めたときに得られるものがあるということになる。しかし、人に説明できるものがないなら、現実に存在しないわけだから、「諦める」ことに意味がない。

「何が諦められるだろう」という一種の緊張感を常にもつことは、目的追求には欠かせないシビアな指向だ。プロジェクトが停滞していたり、企業が傾きかけていたりするのは、何を諦めるのかを問わず、緊張感が欠如していた結果だ。内部にいて事情を知っていると、客観視することができない。自分のことになれば一層客観視は難しくなり、自分を甘やかしてしまう。これを防ぐには、「理屈」や「数字」しかない。必要なのは「冷静さ」と「多視点」だ。

 冷静で多視点になるためには、どうしたらそうなれるかを自分で考え続けることだ。いつもそれを忘れずにいれば、少しずつ、知らないうちにそうなっているはずのものである。

 諦める能力があれば、次のステップにすぐに移れる身軽さを身につけることができる。頭が固くて諦めきれないと、判断が遅くなり、新しいものへの備えが間に合わなくなる。諦める心を養うには、日頃から、柔軟な思考と悲観的予測で自分の状況を観察し、客観的に判断できるように準備しておくことだ。それが諦めの極意である。