近年、ビジネスパーソンは創造性や直感力を求められている。そこで改めて見直したいのが「手書き」の効果だ。デジタルはラクで効率的、手書きは面倒で加工しにくい。そう感じる人も少なくないだろうが、手で書くことには恐るべき力が潜んでいる。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。
「手書き」の恐るべき創造的効果
書くと不安やストレスを抑制したり、自己認識力が高まります。この連載では、その心理学的な根拠も紹介してきました。
不安をなくし、自分を深く知るために、私は「手書き」を推奨しています。
今の時代になぜデジタルではなくアナログの手書きなのか、納得する理由がなければ続かないと思うので、なぜ手書きに絶大な効果があるのかを見ていきましょう。
ラクに早く書くにはデジタルの方が便利ですが、紙に書き出すことは脳に創造・洞察の刺激を与える効果があるのです。
ここでは「大脳基底核」と「内臓感覚」という2つのキーワードから、手書きの効果を考えていきます。
脳科学者のマシュー・リーバーマンは、脳の「大脳基底核」という部分が潜在学習と直感の両方の神経基盤である証拠を見つけました。
また心理学者のダニエル・ゴールマンは、「大脳基底核は、私たちがやることなすことの一切を観察し、そこから決定の規則を引き出す。……どんなトピックに関するものであれ、私たちの人生の知恵は大脳基底核にしまわれている」(*1)と言っています。
これはつまり、直感や潜在学習(深い部分の無意識による学習)が「大脳基底核」で行われているということです。
脳科学的な解説は専門書に譲るとして、私たちが潜在能力や直感、気づき(洞察・着想)を引き出すための1つの鍵は、「大脳基底核」を刺激することだと言えるようです。
では、その「大脳基底核」から知恵を引き出すためには、どうすればいいのでしょうか?
結論からいうと、「手で書く」ことです。
ダニエル・ゴールマンによれば、「大脳基底核」というのは言語を司る大脳皮質とつながっておらず、言葉で伝えることができないのだそうです。
一方で、情動中枢や内臓とはつながっているので、気持ちという形で「これは正しい」「これは間違っている」ということを直感的な感覚として語りかけてくるのだと言います。
これは、逆に言うと頭の中だけで考えるより、手を動かしながら考えた方が「大脳基底核」を刺激できるということであり、インスピレーションも湧きやすいということです。
手で書きながら新しい気づきが生まれたり、連想的に発想したりしやすいのはこうした理由があるのです。
デジタルは一度決まった枠組みを整理していくのには向いていますが、自由に創造したり、深い気づきを得たりするためには手書きの方が効果的だといえそうです。
書いて気づく「内臓感覚」の大切さ
さらに、心理学の大家、カール・ロジャーズは、自分で気づくには「内臓感覚」が大切だと強調します。
心理学者の諸富祥彦氏はそれを著書『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』で「内臓感覚は、論理的思考だけよりもはるかに精緻で、的確な判断を可能にする」「自分の内臓感覚から言葉を発し、この感覚にしたがって生きていくことは、人がより深く、賢明に生きることを可能にする」と解説しています。
深い内臓感覚を感じていくには、自分の中で「しっくりくる」とか「ピンとくる」という感覚、感情を大切にすることです。情動中枢につながるということです。
言ってみれば「腹に聴く」ようなもので、内臓感覚には多くの知恵が眠っていて、人生の方向感覚や洞察が生まれる源泉があります。
しかし、多くの人は論理的な考えだけに終始し、混迷していきます。論理一辺倒から抜け出すためには、自分が何を感じて、何を求めているのか、内臓感覚を手掛かりに深く感じる習慣が必要です。
私が手書きを基本としている理由は、この内臓感覚を磨くことも大切にしているからです。
大脳基底核をより刺激して、私たちの潜在的、直感的な脳の力を発揮し、感情・内臓感覚を鋭敏にして、新しい気づきを生み出すことを可能にするのが手書きなのです。
しかし、デジタルだとまったく意味がないと否定しているわけではありません。デジタルの活用は思考を整理するには良い方法であり、手書きで書いたものを整理することで、さらに気づきを得られる側面があります。
とはいえ価値観を深く探り、人生を創造していくには手書きがベストです。
(本原稿は、『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)