企業と個人それぞれの「パーパス」の重なりをいかにして見つけるか?後藤照典(ごとう・あきのり)
アイディール・リーダーズ株式会社 COO
東京大学教育学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。大学卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションに入社。商品開発、販売・マーケティング、組織開発、人事を歴任。その後、「日本企業にパラダイムシフトを創り、人・組織を解放する」という意図のもと、パーパスコンサルティングを行うアイディール・リーダーズ株式会社に入社。業界を問わず様々な企業をクライアントとし、パーパスの策定・実現の伴走、組織風土変革などのコンサルティングやエグゼクティブ・コーチングに従事している。グロービスにてクリティカル・シンキング等の講師も務める。

曽山:では、多くの企業を見られている後藤さんの考えるパーパスを教えてください。

後藤:先ほど島田さんがおっしゃった通り、パーパスとは「存在意義」です。すなわち、「この組織は何のために存在しているのか」という問いに対する答え。それが組織のパーパスです。パーパスを作りたい、と考えて私たちに相談される企業は増えてきています。

 パーパスを因数分解すると、「自社らしい手段×対象×対象の状態/自社の貢献」となります。たとえばサイバーエージェントさんの場合、自社らしい手段は「新しい力とインターネットで」、対象は「日本の」、対象の状態/自社の貢献は「閉塞感を打破する」ですね。このように分解して考えていくと、自社らしさのあるパーパスが見えてきます。

 パーパスとミッション・ビジョン・バリューとの違いをよく聞かれるのですが、そういった分類の話より大切なのは、パーパス的なものを信じて社員全員が懸命に仕事をする風土を作ることです。それこそが本質なので、パーパスとミッションが同じでも構いません。ただ、ミッションの場合は社会的意義が含まれていないケースもあります。ミッションとは「自分たちはこれを実行する」と掲げるものなので、社会的意義を含めたパーパスをミッションと別に設定する企業も多いと思います。

曽山:なぜ今、パーパスに注目が集まってきているのでしょうか?

後藤要因はさまざまですが、ひとつは環境問題への関心の高さによるものだと考えています。環境保護の観点からESG経営に取り組もうとすれば、「そもそも自分たちは何のために存在する企業なのか」を外部に向けて定義しなければならないので、必然的にパーパスを考えることになります。

 もうひとつの要因は、ミレニアル世代の働き手が増えていることです。ミレニアル世代は、大学生の頃からNPOで活動していたような人が多く、「何のためにそれを行うのか」と考えることが当たり前になっているんですよね。2025年には、働き手の半数以上がミレニアル世代になります。パーパスを発信しなければ、採用も難しくなりますし、離職率も高くなってしまうわけです。そこに気づいた企業が動きはじめている、という背景もあるのではないでしょうか。

個人のパーパスを「思い出す」にはどうすればいいのか?

曽山:パーパスは、会社の外と内をつなげる結節点のようなものだということがわかりました。では、会社の存在意義と個人の存在意義をつなげて考えるためにはどうすればいいのでしょうか。島田さんは、個人のパーパスについてどうお考えですか?

島田:意外に思われるかもしれませんが、個人のパーパスは、誰もが持って生まれてきているんです。すでに持っているのだから、ぜひ思い出してほしいと思っています。自分のパーパスを考えはじめたら、やがて「私は何のために生きているんだろう」という問いが浮かんでくるはずです。そこで「そんな大きなテーマを仕事につなげるなんて」と考えてしまうかもしれませんが、つなげないと仕事がつらくなってしまうんです。個人のパーパスと会社のパーパスが合致していたり、重なる部分が多かったりすれば、仕事は本当にやりやすくなります

 ではどうやって個人のパーパスを思い出せばいいのか。方法は色々あります。すぐに試せるシンプルな方法としては、自分の好きなことと得意なことを見つけることですね。好きで得意なことは、自分の強みになりますから。私はこれを「好き得」と呼んでいます。ポジティブサイドから自分を掘り下げていくと、見えてくるものがあるはずです。

 ユニリーバの場合、「パーパス・ワークショップ」というプログラムで個人のパーパスを思い出してもらっています。そのプログラムでは参加者をいくつかのグループに分けて、4つの質問を切り口に一人ひとりと対話をしてもらうんです。ここで大切なのは3つ。誰かが答えている最中に口を挟まないことと、聞くときは相手に興味を持ってリアクションすること、そして話を聞いて何を感じたか表現することです。そうすると、チームの結束が強まると同時に、一人ひとりがパーパスを思い出しやすくなり、何かしら表現できるようになるんですよ。

 4つの質問は、いずれも人の感情を動かすように作られています。会社にどれほどのエモーションをもたらせるかが、これから注目すべきポイントになるでしょうね