企業と個人それぞれの「パーパス」の重なりをいかにして見つけるか?三好敏也(みよし・としや)
キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員
1958年生まれ。1982年にキリンビール株式会社に入社以来、人事・労務、経営企画、多角化事業に携わる。2015年にキリンホールディングス株式会社取締役常務執行役員に就任以降、人事総務戦略に加え、マーケティング戦略、ブランド戦略等を担当して、コーポレートガバナンスの強化をはじめとするグループの構造改革・経営改革を担う。 キリンビバレッジ株式会社取締役、サンミゲルビール取締役も兼任する。

曽山:キリングループでは、個人のパーパスとどう向き合われていますか?

三好:当社では、昨年から従業員一人ひとりが仕事の意義や目的を確認しながら、仕事への意欲や達成感を高めることで働きがいにつなげる新しい働き方として「働きがい改革」を進めています。従来の「働き方改革」は「生産性を高めよう」という動きですが、気づくとHowの部分ばかりが注目されるようになっていたんですね。しかし、生産性が上がるときというのは、働きがいを感じて自ら動いたとき。大切なのはHowではなく、Whyではないかと思い直したんです。そして、「今やっている仕事は企業のパーパスに合っているか」と仕事そのものを見直したうえで、その仕事に相応しい働き方を選んでもらうようにしました

 コロナ禍のリモートワーク環境で、多くの社員が自分の働く意義を考えるようになったことと重なり、キリングループがCSVに取り組む意味をより深く理解してもらえたように感じています。それによって、生産性だけでなく創造性にも良い効果が生まれました。企業のパーパスに共感するということは、個人のパーパスとの重なりがあるということです。その大切さを、社員も感じるようになってきたのではないかと思っています。

曽山コロナ禍で“ひとり時間”が増え、多くの方は自分の存在意義と向き合ってきました。企業がそのサポートをするのは大事なポイントですね。やらされ仕事より、自分で意味を考えながら仕事をしたほうが自走もできるもの。後藤さんは、個人のパーパスに関する相談を受けることもあるんでしょうか?

後藤:もちろんです。私たちは、島田さんが社内で取り組まれているようなプログラムを、お客様にご提供しています。社員に個人のパーパスを持ってほしいと願っている人事の方や経営トップの方が、非常に増えてきている印象です

 プログラムでは、さまざまな質問を通してパーパスを考えてもらいます。たとえば、「想像してください、今日はあなたのお葬式です。参列者の皆さんが集まっています。そこで参列者の方から、生前どんな人だったと言われたいですか?」と聞くんです。「○○な人だった」の○○の部分に入る言葉が、個人のパーパスのヒントになってくる。このような質問を重ねて個人のパーパスを探求していくわけです。

曽山:パネリストの皆さんは、どのような個人のパーパスをお持ちなのでしょうか?

後藤:私は「人と組織の力・可能性を開放する」です。以前勤めていた会社で、入社してから徐々に元気がなくなっていく若手社員を多く見てきました。これは組織に問題があるはずなんです。このような状況をなくしたいと思い、このパーパスを掲げています。

三好:キリンが大切にしている人材観として、「人には無限の可能性がある」というものがあります。長く人事の仕事をしている中で、その人材観が常に私の拠りどころです。無限の可能性を信じて、その可能性を最大限発揮できるようにするのが会社の役割だと考えています。誰もが多くの可能性を持っているはずなのに、何かが蓋をしている。それを開放してあげれば、組織の力もさらに上がるはずなんですよね。

島田:私のパーパスは「すべての人が笑顔で自分らしく生き豊かな人生を送る社会を創る」です。このために、私の1秒、私のエネルギー、私の命を使っています。

曽山:私は「才能に驚く社会を創りたい」という思いを持っています。どこかの企業やチームに私が入り、5年後には「このようなことを実現できると思わなかった」と言われたい。そのような企業が増えたら、働く人は全員楽しくなるはずです。年齢を問わず、つまらなさそうに働いている人はもったいないなと思っていて。そのような人たちの才能を開花させ、「自分には才能がある」と思ってもらえるようになったらいいですよね。