経営者や著名人に圧倒的な信頼を得るインタビュアーの宮本恵理子さん。一瞬で相手の心をほぐし、信頼を得る宮本さんの聞く技術についてまとめた新刊『行列のできるインタビュアーの聞く技術 相手の心をほぐすヒント88』では、相手の心に寄り添い、魅力を良さを引き出す宮本さん独自の技術をふんだんに盛り込みました。今回は、宮本さんが業界のキーパーソンと「聞く技術」をテーマに語り合ったオンラインイベント「聞く技術フェスティバル」の内容を紹介します。聞くフェス4回目のゲストにお招きしたのが、編集者として活躍するコルク代表の佐渡島庸平氏。『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など数々のヒット作を手掛けてきたカリスマ編集者は、作家やマンガ家などの話をどのように聞いているのでしょうか。(構成/宮本香奈)
■佐渡島氏対談1回目▶「コルク佐渡島氏が教える聞く力の高め方「基本的にコミュニケーションはズレている」
■佐渡島氏対談2回目▶「コルク佐渡島氏が伝授!話し手を「思考の外」に連れ出していく聞く技術」
宮本恵理子さん(以下、宮本) 私は、ライターという職業は、「書く」前の「聞く」部分は大きいと思っています。佐渡島さんはどう思いますか。
佐渡島庸平さん(以下、佐渡島) 平野啓一郎の著書『私とは何か』に「分人主義」という考え方があります。それに従って考えると、「聞く」というのは、その人の中のどの分人を引き出すかということだと思います。編集者とライターのコンビで、それぞれが話し手の違うものを引き出していくことが重要かな、と。
宮本 お互いに気づき合うことができたらおもしろいですよね。
佐渡島 たとえば今、宮本さんと話していることが文章になると、それは話しているものとは違う種類のコミュニケーションになります。コミュニケーションが重層化していくわけです。
僕の新刊『感情は、すぐに脳をジャックする』は、ライターさんが原稿を書いていますが、僕は世間を相手に本を作っているというよりも、目の前のライターさんとのコミュニケーションを楽しみながら本を作っていきました。
宮本 話す人と聞く人の関係性は、本当に大切ですね。私は「聞く」の先に「書く」があった方が、「聞く」の精度が上がるという仮説を持っているんですが、佐渡島さんはどう思われますか。
佐渡島 精度を上げるのはそうかもしれませんね。ただ一方で、「聞く」を楽しむ観点からすると、僕は自分を生まれながらの編集者だと思ったことがあります。というのも、僕は子どもの頃から、本を読む時に著者に質問しながら読んでいたんです。「どうしてこのキャラクターにしたの?」とか。
編集者になって気がついたのは、編集者の打ち合わせって、僕が昔から頭の中で考えていた質問を、作家にぶつけるだけでよかった、ということです。
「書く」にも色々なパターンがあるように、「聞く」にも色々なパターンがあります。頭の中に「これは本当に疑問文になっているか」という問いを持っておくと、問いの立て方が変わってきます。語尾に疑問符を付けただけの問いは、自己否定の疑問文になって、思考停止に陥ることが多いんですね。
宮本 むしろ、思考の広がりを生む問いを立てるべきだ、と。
佐渡島 例えば今日は、「聞く技術」について話をしています。でも、もしかしたら「聞かない技術」っていうのも存在するのかもしれない。「どうやったら人の話に影響を受けないか?」という問いを立てて、真剣に考えたりするのもおもしろいですよね。
宮本 おもしろいですね。「聞く技術」を磨くためには、逆に「聞かない技術」を身につけるのもいいかもしれません。今日はありがとうございました。