課題は“優秀な社員の離職者をどう減らしていくか”

 SSHDが目指す「いつからでも、どこにいても、誰もがより良い“働く”に出会える社会へ」――その、「誰も」の難しさは周知の事実だ。子育て中の人・高齢者・外国人・障がい者……働きたくても働く機会を得られない人たちに、企業はどう向き合っていけばいいのだろう。

阪本 働きたくても働くことのできない方々の就労については、何かひとつのソリューションで万事解決というわけにいきませんが、コロナで一般化したテレワークが求職者の“地理的なディスアドバンテージ”を解決するひとつの方法になりますね。いずれにせよ、これからの日本社会では、多様な人材が必要になることは間違いありません。それを企業はしっかり理解し、どうすれば一人ひとりの力を最大限に生かせるかを考えなければいけません。先ほど言いましたように、「いつでもどこでもフルタイムで働ける社員」はどんどん減っていきますから、多様な人材を戦力化できない職場は生き残れないでしょう。徹底的にIT化して、「うちの会社は人がいなくても回ります」となれば、話は別ですが、実際は、IT化による労働力のカバーと多様な人材の就労支援の両建てでしょう。経営者の方々はそのことを意識し、対応していくことが大切だと思います。

 多様な人材が働ける“インクルーシブな職場”の創出とともに、企業の人事戦略にはもうひとつ大きなマターがあると、阪本社長は言葉を続ける。

阪本 ダイバーシティ就労について言えば、在留外国人の方々をはじめ、就労を希望するすべての人が日本の企業で働くとは限りません。大企業も中小企業も、あらゆる求職者の受け入れ体制を整えなければ、人手不足に輪をかけて、海外の企業に人材をとられてしまう可能性があります。いま、企業の人事戦略にはふたつのポイントがあって、ひとつは、多様な人材を戦力化すること。もうひとつは、優秀な人材に定着してもらうことです。「終身雇用」は社員のほとんどの人が辞めませんから、人事部にとっては労苦の比較的少ない雇用形態です。しかし、海外の企業では優秀な人材ほど辞めていき、条件が良い職場にどんどん転職していきます。これまで、日本の企業では優秀な人材も会社に残ってくれました。出世して、給料も上がり……だから、人事の仕事は「人材の流出」がさほど大きな課題にはなりませんでした。ところが、いまは違います。優秀な人材が次々に組織から抜けていく。経営者や人事の方は、社員に「この会社で頑張ろう・活躍しよう・成長しよう」と思われる制度とともに、誰もが働きたくなる・働きがいを感じる職場環境を作っていく必要があります。