「ありのまま」は自分に対して使う言葉
美輪明宏さんもメディアや書籍でたびたび、こんな発言をしています。「『素の自分を愛して』というのは、畑からとってきたばかりの大根を、泥も落とさずにそのまま食べて下さいと言うようなもの。きちんと水で洗って、おいしく料理してはじめて、人様に出せるものです」、と。
「ありのまま」とか「素」っていうのは、あくまでも自分に対して使う言葉であって、他人との関係のなかで使う言葉ではないと、親と、恋人と、友人と、様々な人と喧嘩したりぶつかったり、すれ違ったり、傷ついたりしたなかで、思うようになりました。
「素直な態度で人と接する」のと、「ありのままの自分を見せる」というのは、言葉の感じは似ているけれど、実際の態度はまるで違います。
偏見を持たず、人を見下さず、変な邪心や計算をせず、自分の純粋な意見を人に伝え、また、人の意見にも聞く耳を持つ素直さと、人が不快に思うような自分の欠点を、直したり隠そうと努力したりもせずに、人に受け入れて欲しいと押しつける態度は違う。もちろんこれが全てではないし、人によっても関係の保ち方は様々ですが。
私は「素直」と「素」は混同されがちであるということを意識するようになると、人間関係で悩むことが格段に減りました。
よくよく考えれば、生まれてからずっと一緒に生活している親とですらわかり合えないことも多々あるのに、生まれ育った環境も、境遇も、出会った人も、何から何まで全く違う赤の他人に、「完全にありのままの自分」を受け入れて貰えるなんて、ほとんど奇跡に近いんじゃないかと思います。
こうして書くと、エルサのLet It Goを全否定しているようにも聞こえるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。むしろ、彼女の「ありのままの自分を受け入れる」という、自分軸での考え方は、幸せな人生の必須項目だと思うのです。
先程から「ありのまま」を他人にぶつける姿勢は失礼な場合がある、と書いてはいますが、それは「素の自分」を受け入れて欲しいという態度が自己中心的でわがままに思えてしまうから。そうではなく、ありのままの「自分」を、自分自身が受け入れる。
つまり、「自分、駄目で嫌いなところもたくさんあるけど、他人は他人、自分は自分。人と自分は違うのだ」と認められれば、肩の力を抜いて素直に、より楽しく生きていけるんじゃないかと思っています。
人と比較して、羨ましがったり、妬んだり、自分が人より「駄目」とか「できない」ことにむしゃくしゃしたり、世間の目を気にして、自分を良く見せようと見栄を張ったり。自分が一番になりたいから、まわりが下がってくれればいいのに、と人の不幸を願ってしまったり……。そんな意地汚い自分に気が付いて、自己嫌悪になって、ますます「ありのままの自分」が認められなくなる。だからこそ、どんな自分も受け入れて、愛してくれる人を求めてしまう。
自分自身が「ありのまま」を認めてあげさえすれば、他人と比較することもなくなり、素直に接することが出来るし、純粋に自分の欠点を直そうと努力することができるのに……。実際は、他人に「ありのまま」を押しつけるくせに、内心はプライドが邪魔をして、「ありのまま」を認められない。意地を張って真逆の態度をとってしまう、苦しくて他人にも自分にも素直になれない、悪循環が発生します。
いやー、それにしても、めんどくさいね! 嫌な部分がある自分と、うまく折り合いをつけてつきあっていくというのは、どうしてこれほど難しいのでしょうか。
いろいろこうして書いてきたことも、すべて自分への戒めであって、書けば書くほど自分の欠点が見つかって……と、上にあげた悪循環にしょっちゅう陥ってしまうのですが。でも、私と同じように、なんだか人とわかり合えないモヤモヤ感、自分とわかり合えないモヤモヤ感を抱えている女の子って、意外と多いんじゃないかと思います。「ありのまま」って本当に難しく、こんなに長々と偉そうに語っておきながら、私もまだまだ「ありのままの自分」の扱い方は分からないし、頭でわかっていても実践できないことの方が多いのですが。
ただ、「ありのまま」というのは他人に対してではなく、自分のために使う言葉で、好きな人に「ありのままでいてほしい」と言われたら、素を見せたくなる自分に一旦ブレーキをかけて、素直になれるように心がけると、ちょっとは楽に生きられるのかもしれないよー、ということを、こそこそっと、つぶやいておきます。
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。