「アンガーマネジメント」の社会的な役割は何か

 日本アンガーマネジメント協会では、アンガーマネジメントの基礎的な理論だけではなく、伝え手として必要な知識を学ぶ「アンガーマネジメントファシリテーター養成講座」も開講している。受講者の声には、「自分自身が怒りを深く理解して楽になった」「アンガーマネジメントの普及に尽力することが社会貢献へつながった」といったものがある。

安藤 受講者は男女比でいえば4:6で、女性の方がやや多いです。日本は女性が生きづらく、仕事や家庭の中で怒りの問題に向き合わざるを得ない機会が多いことが、この数字に表れているのではないでしょうか。また、以前は個人的に受講される方が多かったのですが、この2〜3年は企業や団体が自分たちの組織内でアンガーマネジメントファシリテーターを養成すべく、従業員を講座に派遣してくることが増えています。管理職や人事の方が多くいらっしゃいますね。企業におけるメンタルヘルスは大きな問題になっていますので、アンガーマネジメントを積極的に取り入れようとしているのでしょう。介護施設長さんが受講された介護施設では、従業員の離職率が下がったという報告もあります。

 アンガーマネジメントはあらゆる人に良い影響を及ぼすと言われるが、とりわけ、医療・介護・教育関連・営業・サービス業などの“感情労働”に携わる人や新入社員などの若年就労者は、アンガーマネジメントを身につけているかどうかでメンタルの保ち方が変わってくるという。つまり、アンガーマネジメントを習得することで、怒りをコントロールする力だけではなく、怒られることへの耐性も身につけられるのだ。

安藤 怒りのメカニズムを学ぶと、理不尽な怒りをぶつけられても、「それは自分ではなく相手の問題であり、自分の人格が否定されているわけではない」といったことが理解できるようになります。つまり、怒られることへの耐性が身につくのです。これが、離職防止にもつながります。また、最近はパワハラだと言われることを恐れたり、「褒めて育てなければ」という固定観念にとらわれたりして、怒るべきときに怒れないリーダーも増えていますが、そうした人はアンガーマネジメントを学ぶことで、必要に応じた怒り方ができるようになります。

 あらゆる価値観が社会の中で入り混じるうえ、コロナ禍の影響も受けて、あらゆる場で人々の分断が生じている昨今――そんな対人関係の分断をいかに乗り越えていくかが企業・団体にとってもひとつの岐路となるだろう。

安藤 分断が生じると、そこには対立が生まれます。対立からは衝突が生まれ、衝突には必ず怒りが伴います。しかし、アンガーマネジメントのトレーニングを積んで、自分と世界の境界線を薄くすることができれば、分断しているコミュニティをつなげられるようになるのです。それこそがアンガーマネジメントの社会的な使命だと私は思っています。ひとりでも多くの人に、アンガーマネジメントの存在価値を伝えていきたいですね。