「健康経営」の落とし穴は?企業が忘れてはいけない3つのポイントPhoto by K.SUGASAWA

コロナ禍では、多くの企業が、事業所での感染対策はじめ、リモート勤務やワクチン接種などさまざまな取り組みを通して従業員の健康確保の重要性を再認識している。今後も「従業員の健康」をどのように守るかが各方面から問われることは間違いない。しかし、企業による「従業員の健康確保」は、法律や規制への対応に終始し、医師や保健師といった専門家に任せるだけといったケースも少なくない。産業医・労働衛生コンサルタントとして就労者の現場の声に精通し、ITを活用した健康管理クラウドサービスを提供する株式会社iCAREの山田洋太氏(代表取締役CEO)に、人事戦略としての「健康経営」の課題について話を聞いた。(フリーライター 古井一匡、撮影/菅沢健治、ダイヤモンド社 人材開発編集部)

企業における「健康経営」はどうなっているのか?

 ここ数年、「健康経営」という言葉がクローズアップされている。大きな契機となったのが、2015年から経済産業省が上場企業を対象にアンケート(健康経営度調査)を行い、「健康経営」に優れた企業を選定し、「健康経営銘柄」として公表するようになったことだ。2017年からは、非上場企業も対象とした「健康経営優良法人」の認定も始まっている。

 経済産業省は、「健康経営」を「(企業・団体が)従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義している。「企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待される」としている。

 7回目となる「健康経営銘柄2021」では、健康経営度調査に過去最高の2523法人からの回答があり、29業種48社が選定*1 された。また、5回目となる「健康経営優良法人2021」の認定では、大規模法人部門に1801法人、中小規模法人部門に7934法人が認定され、前回から大規模法人で2割、中小規模法人部門では6割を超える認定数*2 となった。なぜ、いまこのように、多くの企業で「健康経営」に対する関心が高まっているのだろうか。

*1 経済産業省ニュースリリース「『健康経営銘柄2021』に48社を選定しました!」 (2021年3月4日)
*2   経済産業省ニュースリリース「『健康経営優良法人2021』認定法人が決定しました!」 (2021年3月4日)

山田 日本では2008年から人口減少が始まり、少子高齢化の加速によって労働力人口*3 もいよいよ本格的に減っていきます。「健康経営」への関心の高さは、将来にわたって事業を継続し続けるためには、従業員の健康状態を積極的に守る必要があることを企業経営者が痛感しているからだと思います。

*3 15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの(総務省統計局/労働力調査 用語の解説より)。労働力人口は近年増加傾向にあったが、2020年度は減少した。

 健康を害すれば従業員の生産性が下がり、休職や離職となれば労働力そのものが失われます。多くの企業では、新規採用の難易度も年々上がってきており、既存の従業員を大切にすることが死活問題になっているのです。そうした機運が高まってきたところに経済産業省の各種顕彰制度がスタートしたわけで、「健康経営」というキーワードを短期間にここまで広めたインパクトは絶大です。

 私がこの会社を設立した10年ほど前はまったく状況が違いました。従業員の健康データを一元管理する必要性を多くの企業を回って説明したのですが、総論はともかく、各論になると関心をほとんど持ってもらえず、プレゼン中に居眠りしてしまう人事部長や役員の方もいました。

 変わり始めたのが、「労働安全衛生法」が改正され、一定規模以上の事業所でストレスチェックが義務づけられた2016年頃からです。自殺者が3万人を超える状況が2010年から続き、2015年に起きた大手広告代理店の従業員の自殺など、過労死の問題が社会的に大きくクローズアップされたこともきっかけになりました。また、2018年には「働き方改革関連法案」が成立し、時間外労働(残業)の上限規制のほか、産業医に労働者の労働時間など必要な情報を提供する衛生管理の強化が義務付けされたこともあります。

 こうした流れのなかで、最近は私たちの提案に対して、「それは大切だ」「すぐ導入したい」という反応が増えてきています。

「健康経営」の落とし穴は?企業が忘れてはいけない3つのポイント

山田洋太 (やまだ ようた)
株式会社iCARE 代表取締役 CEO
産業医・労働衛生コンサルタント

金沢大学医学部卒業後、2008年、久米島(沖縄県)で離島医療に従事。顕在化された病気を診るだけでなく、その人の生活を理解しないと健康は創れないことを知り、経営を志す。2010年、慶應義塾大学MBA入学。2011年、心療内科・総合内科で医師として従事しながら、株式会社iCAREを設立。2012年、医療センターの経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。2016年には、企業向けクラウド健康管理システム「Carely」をローンチした。2017年、厚生労働省が行う検討会にて産業医の立場から提言(2018年より同省委員として従事)。2021年、「Carely」の利用アカウントが19万を突破した。代表取締役CEO兼、現役産業医。