愛されようとしないから、愛される

私は、リーダーというものを勘違いしていたのかもしれない。学校、職場、家族や友人関係。教育者やリーダーになる場面はいくつかあったが、そのいずれでも私は、自分が一番目立とうとしてしまっていた。自分が一番の手柄を得られるようにしたいと思っていたし、逆に、サブリーダーで目立たなかったり、誰にも感謝されなかったりしたときはなんだか不満だった。

しかしそもそもが間違いだ。感謝されたい、評価されたいという気持ちが強い人は、本当は指導者には向いてないんじゃないかと思う。「愛されるリーダーになるコツ」なんて本がよく出ているけれど、本当は「愛されたい」という気持ちを無くすことが、真のリーダーへの一歩なんじゃないか。

そんなことを、ぼんやりと、もう十数年も前の記憶を辿りながら考えていた。

もちろん、すぐにそんな理想的な、チームメンバーや部下第一のリーダーになるのは不可能だ。私自身も「愛されたい」という承認欲求からはなかなか逃れられていないし、本当に相手のことを考えられるようになるには、もっとたくさんの時間がかかるだろうと思う。

けれども、目指すだけならタダだ。もし万が一彼女とすれ違ったとき、胸を張って顔を見せられるように、私は「愛されるリーダー」ではなく、「愛されないリーダー」を目指そう。

いつかまた、会えるだろうか。

会えたらいいな。

T先生はもう一度勉強し直すため、海外に留学しているらしいということを、風のうわさで聞いた。

理想のリーダーは愛されようとしない川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。
Twitter@kawashirosaki