実は日本語が、今の日本を邪魔している

日本が変わるためには、本物のエリートが必要だ<br />『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』刊行記念特別対談<br />【出井伸之×福原正大】(後編)

福原 僕はこれから、日本でもエリートが必要になってくると考えています。しかも、世界が求める評価基準をクリアした、エリートです。そのためにIGSという学校を作ったわけですが、そもそもどうして日本では、本物のエリートが育たないのでしょうか。

出井 産業革命時代には、エリートはいらなかったんですよ。むしろエリートは否定して、チームや組織で働ける人を育てる必要があった。エリートに対しては、今でも偏見があるでしょう。フランス語では、選別した、という意味。エリートとは、選ばれし人ですから。つまり、日本は、選ぶことを否定してしまったんです。
 戦前は、帝国大学でエリートが育成されて、日本を背負って立つ官僚になった時代もあったんです。でも、戦後は平等主義で教育の機会均等が基本的な考え方ですから。それをやり過ぎてしまったんですね。エリートは本来、必要なものなのに、逆に行ってしまった。だから、そのツケが今、来ている。

福原 日本の教育は、平均値はとても高いと思うんです。「下」をしっかりフォローしてきたから。ところが、「上」が育たないまま、放置されてしまった。先生たちも、勝手に勉強してくれるんだから別にいいや、ということになってしまった。
 でも、本当は彼らも何かのきっかけが欲しいんですよね。こんな本を読んでみろ、とか、そういう経験がない。刺激もないから、成長もできない。せっかくエリートたるベースを持っているのに、物足りないと思っている若者も多いと思うんです。
 この間、コロンビア大学に行っている学生と話をしていたら、入学すると最初の二年間で、あらゆる宗教書と哲学書を全部読まされるというんです。そういうコアカリキュラムがあって、そこでみんなで日々、議論をし続ける。こういう経験が、やっぱりいい意味でのエリートを作って、社会に対する貢献というものを考えることにつながっていくのかな、と思いました。

出井 繰り返しになりますが、決まったものをたくさん作るような、大量生産社会には、そんなにエリートはいらないんです。でも、本当の改革をするには、やっぱりエリートがいる。会社もそうです。ただし、エリートだけでは会社は成立しないんですね。エリートは少数でいいんです。
 そもそも、どんな立場になってきたら、どんな人材が必要なのか、そういうことを日本はしっかり考えなければいけなかった。例えば、日本で働いてもらう人たちが、どんな才能を持った人たちであってほしい、ということもそうでしょう。介護の世界だけじゃないはずなんですよ、日本に来てほしい分野の人材は。

福原 では、どんな仕組みであったりシステムがあれば、エリートは育つとお考えですか。これだけ既得権益を持っている人たちが多くいる中で、少数のエリートの育成を、果たして大きな形でできるものでしょうか。

出井 まずは、これから50年くらいをどんな国にするのか、本質的な議論が必要でしょう。まさか産業革命の延長をまだ続ける、という選択肢はないと思いますから。その議論をとことんして、それに対して社会とのインターフェースたる学校教育が何をどうすべきか、整理していく。
 それを変える仕組みは必要ですが、僕が思うのは、実は日本語が邪魔している、ということです。例えば、僕は外国の本も好きなんですが、翻訳本を読むと理解できないことがあるんです。原書を読まないと本当のことがわからないんですね。日本語は解釈だからです。その意味では、すべて日本語の教科書で行われていること自体、おかしいと思うわけです。そこに、すべて日本の解釈が入ってしまっているから。
 理系と文系が分けられていることも基本的にはアメリカにはない。どうして経済学が文系なのか、説明のしようがないんですよ。これも日本語で考えなくなると、変わると思うんです。
 全部とは言わないですよ。ただ、日本語が今の日本を邪魔している事実には気づかないといけない。そういうことも含めて、これからの日本の未来像や、そのために今やるべきことを、議論したらいいと思うんです。少なくとも今の延長線上にいたらまずい、ということは、みんなわかっているわけですからね。

(次回は新年1月8日更新予定です)


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