世界中の人々がこれまで通りに会えなくなった時代を踏まえて書かれた会話の本、『会って、話すこと。』。著者でコピーライターの田中泰延さんが、心地よい会話の「始め方」と「終わらせ方」を伝えます。(構成:編集部/今野良介)
「あのさ、」
こんにちは。お忙しいなか、お時間をいただき、この記事を読み始めてくださってありがとうございます。
急に挨拶を始めてしまったが、これはコミュニケーションの基本なのだ。
「ちょっと話があるんだけど」でも「会議室に来なさい」でも「一瞬いい?」でもいいが、相手が応じてくれたら「忙しいところありがとう」と、まず謝意を述べる。
社長が平社員を呼ぶときでも、夫が妻を呼ぶときでも同じだ。知らない人が多すぎると思う。
上記のように用事があって始める会話以外でも、「あのさ、」ぐらいで始まる軽いものもある。
しかしあなたは「あのさ、」にも応じてくれた相手にまず「無視されなかった」ことに関して心の中で感謝の心を持たなければ、会話はうまくいかない。みな自分の人生の時間を生きているのだ。
そのようにして始まった会話だが、今度は終わらせるのが苦手、という人がいる。人と話が始まってしまったら、なかなか立ち去れない、自分から電話がうまく切れない、という人だ。
意識して他人同士の会話に聞き耳を立ててみると、会話には必ず「クロージングポイント」が存在する。
議題についてなんとなく両者が合意した瞬間や、他愛ないことで両者が笑った瞬間である。
そのとき「会話はそこでクロージングしている」ことをわからない人間が多い。そういう人はだいたい、その後に必要ないことを言ってしまう。今思いついた例え話で恐縮だが、あたかもまるで蛇の絵に足を描くようなものだ。
「そうだね」という同意や、笑いが発生したらそれを逃さず、「じゃ」とか「ではまた」と終わらせてしまえばいいのだが、それができない。
普段はそんな人でも、うまく会話を終わらせている場面がある。それはLINEのスタンプだ。
LINEのスタンプは会話を終わらせるために発明されたといっても過言ではない。
なんだか熊が「サンキュー」と手を振っている。ウサギが「オーケー」などと笑っている。三国志の登場人物が「かたじけない」などと言っている。意味はないが、終わらせたい時に繰り出せば、終わるのだ。
話を終わらせたい人は、会話の最後にLINEのスタンプを出すような気持ちで「じゃあ」とか「ではまた」と言えばいい。
それで無礼に思う人は少ない。むしろ潔い終わらせ方のほうが好感を持たれる。
この文章を読んでくださってありがとうございます。では、また。
自分のことは話さなくていい。相手のことも聞き出さなくていい。
『会って、話すこと。』は、毎日の会話の中で、こんなことに苦しんでいる人に読んでもらいたい。
・ 自分のことをわかってもらおうとして苦しんでいる人
・ 他人のことをわかろうとして苦しんでいる人
・ 他人を説得したいと思って苦しんでいる人
・ 他人を思い通りに動かしたいと思って苦しんでいる人
・ 他人にもっと好かれたいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと学びを得たいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと笑いたいと思って苦しんでいる人
興味もないのに相手の話を聞くふりをしたり、
聞いてもいないのに相槌を打ったり、
理解してもいないのに相手の言葉を反復したり、
そんな会話術が人間同士が正直に向かい合う態度といえるだろうか。
あるいは、興味本位に相手に根掘り葉掘り質問を浴びせたり、
自分を理解させたくて心の内面を相手にぶちまける、
そんな姿勢が向かい合う二人を幸せにするだろうか。
また、上手な世渡りのために相手を持ち上げたり、
自分の利益のために相手に「イエス」と言わせる、
そんなテクニックが誠実だと言えるだろうか。
自分のことは話さなくていい。
相手のことも聞き出さなくていい。
ただ、お互いの「外」にあるものに目線を合わせ、
同じ方を向くことができれば、
誰とだって会話は続くし、楽しくなる。
2020年から非日常になってしまった「会って、話す」を問い直し、
幸せな人間関係を築く技術と考え方を伝えます。
【目次】
はじめに 大阪人の会話に「オチ」と「ツッコミ」はない 《田中泰延》
序章 なぜ「書く本」の次に「話す本」をつくったのか?
・この本は、前の本と密接に関連している 《田中泰延》
・おじさん同士の会話に、だれが興味あるのか 《今野良介》
第1章 なにを話すか
ダイアローグ1 「わたしの話、聞いてます?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 相手はあなたに興味がない
その2 あなたも相手に興味はない
その3 わたしのことではなく、あなたのことでもなく、「外部のこと」を話そう
その4 「おもしろい会話」のベースは「知識」にある
会話術コラム① とにかく話が飛ぶ浅生鴨さん
第2章 どう話すか(とっかかり編)
ダイアローグ2 「ちがうやろ!」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「関係ありそうな、なさそうなこと」を話そう
その2 「ボケ」は現実世界への「仮説」の提示
その3 「ツッコミ」は「マウンティング」である
その4 審査員になるな
その5 会話に「結論」はいらない
その6 「知らんけど」の効用
会話術コラム② 困った時はこけてみろ ~ 岸本くんの教え ~
第3章 どう話すか(めくるめく編)
ダイアローグ3 「ビジネス書なんですけど」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「他人の発言にどう返したか」が、今のあなた
その2 言葉は「細部」が大事
その3 人間は会話すると、必ず傷つく
その4 行為より、言葉のほうが重い
その5 エトスなき会話は虚しい
会話術コラム③ 会話術の本、その素晴らしきデタラメ世界
第4章 だれと話すか
ダイアローグ4 「わたしのこと、好きですか?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「機嫌よく生きる」大切さ
その2 会話の始め方、終わらせ方
その3 おかしい人のおかしさは「距離の取り方」のおかしさ
その4 悩み相談には種類がある
その5 自分が楽しくなるリアクションをしよう
会話術コラム④ 好きという言葉は、最悪です
第5章 なぜわたしたちは、会って話をするのか?
ダイアローグ5 「失敗談を聞かせてください」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 オンラインはなにがダメなのか
その2 「書く」より先に「話す」があった
その3 「出会い」とは「仕入れ」が他人と響き合った時
その4 吐露ということ
その5 違う人と、同じものを見る
ダイアローグ6 「また会いましょう」 《田中泰延 × 今野良介》
おわりに
・廃れない本 《今野良介》
・「わたし」と「あなた」の間に「風景」がある 《田中泰延》